01




ピンポーン



「あれ、誰だろう?」

気持ちの良い風を感じながら洗濯物を干している時に響いたチャイム。

空になった洗濯カゴを置いてリビングに向かい、インターホンの画面を覗き込む。

ツンツンとして金色の髪に、青いジャケット。どうやらお客様はデンジお兄ちゃんみたいだ。

思ってもみなかった来客に急いで玄関へと向かい、扉を開ける。

お兄ちゃんは私の顔を見ると"よぅ"と言って笑った。その隣にはエレキブルもいて、"久しぶりだなぁ"と目を細めている。

「急に来て悪いな」

「うぅん、それは全然良いんだけど……どうしたの?」

「これを渡しに来たんだ」

そう言ってデンジお兄ちゃんが差し出したのは、2枚の横長の紙。

シママやエモンガ、シビシラスといったイッシュ地方のポケモンたちが描かれている。

「これ……チケット?」

「あぁ、ライモンシティにある遊園地のチケットさ。
ナオト君と一緒に行ってきたらどうだ?」

「こ、こんな良いもの貰えないよ! というか、自分で行くために買ったんじゃないの!?」

「元々知り合いから貰ったものなんだが……。
タイミングの悪いことに、ジムリーダーの定例会議が入って行けなくなったんだ。
俺がこのまま持ってても仕方ないし、お前さえ良いなら貰ってくれ」

「そ、そこまで言うなら……。ありがとうね、お兄ちゃん」

目の前に差し出されていたそれを、お礼を言って受け取る。

それと同時に私はあることに気付いた。

「そういえば、今日はライチュウと一緒じゃないんだね?」

そう、大抵いつも一緒にいるライチュウの姿が無い。

インターホンでお兄ちゃんの姿を見た時、あの子も一緒にいる……ついでに言えば頬擦り待ったナシだと思ったんだけど。

デンジお兄ちゃんは困ったように笑いながら眉を下げた。

「アイツを連れてくると居座りそうだったから、ジムに置いてきた」

『ライチュウはレイナが大好きだからなぁ』

「あー……」

その言葉に、私もつい苦笑いを零す。

ナギサジムでのバトルの後、私にプロポーズしてきたあの子のことだ。

お兄ちゃんやエレキブルが連れて帰ろうとしたところで、"やだぁー! まだレイナといるぅー!"ってしばらく離れないだろう。

あれ以来ナオトに対抗心持ってるみたいだったし、ジムの留守を預けてきたのは正解だったんじゃないかな。

「せっかく来てくれたんだし、お茶でも飲んでいく?」

「いや、気持ちだけ貰うよ。この後ジム戦の予定が控えてるからな」

「そっか。……あ、じゃあちょっと待ってて」

私は小走りでキッチンに向かい、昨日作ったクッキーとポフィンを手に取る。

余り物なのが少し申し訳ないけど、せめてもの感謝の気持ちだ。

「はい、これ。ジム戦の後にでも食べて。
エレキブルはこっち。ライチュウたちの分も入ってるから、みんなで分けてね」

『おぉ! 嬉しいだよぉ!』

「ありがたくいただくよ。じゃあ俺たち、そろそろ行くな」

「うん、またね」

ナギサジムへ戻っていくお兄ちゃんとエレキブルを見送りながら、私は笑みを零す。

(お兄ちゃん、何だか楽しそう)

あの時の気怠げな雰囲気はすっかりと鳴りを潜め、表情がとてもイキイキしてる気がした。



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