09

店員さんの言葉に、私たちの席だけピシリと空気が固まる。

うん、マホミルに罪は無い。無いんだけど……!



((よ、よりによってフェアリータイプ……!))



ギギギ……と錆びた機械のような動きでシャーリーを見る。

でも彼女は青ざめることもなく、困ったような表情を浮かべていた。

いや、ちょっと固いような気はするけど。

「あの、シャーリー……? 大丈夫?」

「う、うん……」

「本当に? 無理してない?」

「うん、大丈夫……。どうしてなのかは分からないけど……」

ミアレ空港ではあんなに青ざめていたのが嘘みたいに、今は落ち着いている。

背中側に隠れていて姿が見えないからなのか、それとも他に理由があるのか。

するとシャーリーが、何か思い当たったかのように"あ……"と呟いた。

「この子……私に似てるのかも」

"おいで"と言われたマホミルが、ビクビクしながらもシャーリーの前に移動する。

しばらくマホミルを眺めた後、眉を下げて笑った。

「あぁ、やっぱり……小さい頃の私に似てる。
……あの、この子にトレーナーはいますか?」

「ん? いいや、野生の子だよ」

「それなら……マホミルさえ良ければ、私が連れて行っても良いですか?」

シャーリーの言葉に、全員が驚きの声を上げる。

それはマホミルも例外ではなかった。

「だがシャーリー、お前はフェアリータイプが……」

「お気遣いありがとうございます、緑炎様。
でも、この子となら上手くやって行ける……そんな気がするんです」

シャーリーがマホミルの目の前にモンスターボールを置く。

真っ直ぐな……それでいて優しい目で見つめた。

「マホミル……私と一緒に、来てくれませんか?」

『本当に、良いの……? こんな臆病な私で……?』

『仲間が増えるのか!? やったなー!』

ガチゴラスが嬉しそうにニパーッと笑う。

口元にケーキのクリームを付けてるのが、天然っぽくてちょっと可愛い。

『私怖がりだし、ポケモンバトルも苦手だけど……それでも良いなら』

マホミルはそう言うと、自分からモンスターボールへと入っていく。

ユラユラと小さく揺れて、カチッという音が鳴った。

「シャーリー、本当に良かったの?」

「うん、良いの。この子と一緒にいることで、変われるかもしれない。
緋翠様や白恵様……他のフェアリータイプの子たちとも、ちゃんと話せるようになりたいから」

「そっか……。うん、シャーリーならできるよ」

「無理しないで、ゆっくりで良いからね」

シャーリーは前へ進もうとしている。

過去の悲しい記憶を乗り越えて、成長しようとしている。

彼女はもう……きっと大丈夫だ。

「う〜ん、美しい友情は良いねぇ。
君たち、これをどうぞ。僕からのサービスだよ」

私たちの手に乗せられたもの、それは色とりどりのアメが入った詰め合わせだった。

「これ……アメですか?」

「そう、あめ細工の詰め合わせだよ。そのまま食べても良し、マホミルに持たせて進化させるも良しだ!」

「へぇ、マホミルってあめ細工で進化するんだ」

店員さんがマホミルの進化方法について、写真と一緒に説明してくれる。

マホミルはあめ細工を持たせて回転することで、マホイップというポケモンに進化するらしくて。

持たせるあめ細工の種類や回転する向き、回転数……。あと昼に進化するか夜に進化するかで、色んな見た目のバリエーションがあるそうだ。

「わぁ、ほんとに色んな種類の子がいるね」

「うん、どんな姿にするか迷っちゃいそう。
シャーリーだったらどの姿が良い?」

「私は、マホミルに選ばせてあげようと思って。
焦って進化する必要も無いし、この子と一緒に考えてみる」

「……フフッ、それも良い考えだね!」

楽しかったティータイムも終わり、カフェの窓からはオレンジ色の光が差し込んでいる。

お会計を済ませ、スボミーインに向けて歩き出した私たち。

見合わせたその笑顔は、夕陽に負けないくらい輝いていた。





「……良いねぇ。合格には遠いけど、中々にピンクな子たちじゃないか」

客人のいなくなったカフェに1人佇み、紅茶の無くなったティーカップを置く。

仲良く並んで歩く3人の後ろ姿を眺めながら、"ガラルの魔術師"はそっと微笑んだ。



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