08
「まさか本物のネズさんに会えるなんて……。
カ、カッコ良かったな……」
場所は変わって、再びエンジンシティに戻ってきた私たち。
今はフラリと立ち寄ったカフェで、休憩も兼ねたティータイム中。もちろん緋翠君と白恵君も一緒だ。
紅茶を1口飲んだシャーリーが、ホゥ……と息を吐いた。
「あんな陰気な人間のどこが良いんだ」
「晶、シーッ! 余韻に浸らせてあげて!」
「少々強面ですが、良い方でしたね」
「あぁ、The・パンク系って感じだったねぇ」
あの後空飛ぶタクシーの中で、シャーリーがネズさんの曲を聴かせてくれて。
あの見た目に違わず、曲調はロック……詳しく言えばパンクロックと呼ばれるジャンルだった。
シャーリーがあぁいう曲を好きなの、ちょっと意外だったな。
ガチゴラスをパートナーにした理由を聞いた時にも思ったけど、もしかしたら"カッコ良いもの"が好きなのかも。
私も聴いてて楽しかったし、今度CD探してみようかな。
「ツーショット写真撮ってもらえて良かったね」
「うん、宝物にする……!」
嬉しそうに笑うシャーリーに、私たちも思わず笑顔になる。
旅行に出掛けた時はどうなることかと思ったけど……。
ユイたちともちゃんと打ち解けてるし、彼女を誘って良かったな。
「……あれ?」
「どうしたの、シャーリー?」
「あの子、ずっとこっちを見てる気がして……」
シャーリーの見つめる方に視線を向ける。そこには1匹のポケモンが観葉植物の後ろからこちらを覗いていた。
「ねぇお前、さっきから何でこっち見てるわけ」
『ああああの、楽しそうな雰囲気を感じて……でも声を掛けるのは怖くて……!
ご、ごめんなさいいぃ……』
ビクビクと怯えている様子のそのポケモンは、涙目になって今度こそ植木鉢の後ろに隠れてしまった。
「なっ……これじゃ僕が泣かせたみたいじゃん」
「あー、碧雅が女の子泣かしたー」
「紅眞はちょっと黙っててくれる」
「ダメだよ碧雅、女の子には優しくしなきゃ。
……初めまして、お嬢さん。こっちに来て俺らとお茶しない?」
龍矢がそのポケモンの近くに膝をつき、ニコリと笑って声を掛ける。
でも"ピッ!?"と悲鳴のような声を上げたそのポケモンは、一目散にシャーリーの後ろへ隠れた。
おっと、どっかで見た光景のような気がするぞ?
「えっ!? えっと……ど、どうしよう?」
「おや、マホミルが姿を見せるなんて珍しいな」
注文していたパンケーキを持ってきてくれた店員さんが、シャーリーの方を見て笑う。
マホミル? っていうのは、あのポケモンの名前なのかな。
「その子は見ての通り臆病な性格でね。
いつもはあの植木鉢の後ろに隠れているんだけど……随分好かれたんだね」
「す、好かれてるんですかコレ……?」
マホミルはシャーリーの服をギュッと掴んでいて離れそうにない。
どうしたものか、この状況……。
「でも可愛いね、その子。何タイプなんだろ?」
「君たちはマホミルを見るのは初めてかい? この子はフェアリータイプのポケモンだよ」
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