04

「ぬぅ……」

「ユイちゃん、すーちゃんおこっちゃった」

「ぬぅぅ……」

「り、理由も分かんないし……どうしたんだろう?」

翠姫ちゃんの栗色の瞳が、白恵と緋翠を睨む。

私かハルちゃんが話しかけると元の表情に戻るんだけど……。

「マスター、彼女から強い敵意を感じ取れました。
マスターには向けられていないので、恐らく私と白恵にだけ向けられているものかと」

緋翠が翠姫ちゃんの目を盗んでこっそりと耳打ちしてくれる。

白恵と緋翠にだけ、って……どういうことだろう。

「ぐぬぬ……まさか男とはな。女子と思うて油断したわ。
ユイ、悪いことは言わぬ。男なぞ信用せぬことじゃ。
都合が悪くなれば簡単に捨てられてしまうぞ」

「なっ……! 私がマスターを捨てるなどありえません!」

「ぼくもユイちゃんといっしょにいるよ」

「翠姫、緋翠。カフェでは静かにね」

ハルちゃんの鶴の一声で、冷静さを取り戻した緋翠が静かに座る。

翠姫ちゃんも少し拗ねたような顔でパンケーキを1口食べた。

幸いテラス席には私たちしかいなかったので、誰もこっちを振り向く人はいない。

「翠姫のトレーナーとして謝るよ、緋翠。
この子は前のトレーナーだった男の子から虐待を受けて捨てられた経験があるんだ。
それがトラウマになってて、大の男嫌いなんだよ」

「男嫌い……」

あんな可愛い笑顔を浮かべる翠姫ちゃんに、そんな過去があったなんて……。

いくら心の機微に聡い緋翠でも、さすがに相手の過去までは読めない。

"申し訳ありません……"と謝る緋翠に、ハルちゃんは"こっちこそ不快な思いさせてごめんね"と言ってくれた。

「すーちゃん、あっちゃんとおなじなんだね」

「あっちゃん……?」

「私のチルタリスだよ。晶って名前だから、あっちゃんって呼んでるんだ」

「同じって……まさかその子を捨てたの?」

「違う違う、私がじゃなくて!
……晶も前のトレーナーに捨てられた経験があるんだ。
信じてた人に裏切られたのがショックで、人間不信になっちゃったんだよね」

「人間不信、か……。気持ちは分かるよ」

「え? それってどういう……」

「別に。お前には関係の無い話でしょ」

何か……碧雅と晶を足して2で割ったみたいな雰囲気の子だな。

でも晶の気持ちが分かるって言ってたし、もしかしてハルちゃんも人間不信とか?

チラリと彼女の顔を見ると、その視線は白恵と緋翠に向けられている。

ハルちゃんもイッシュの人みたいだし、やっぱり他の地方のポケモンが珍しいのかも。

「あの、ハルちゃ……」

「ハルで良い。ちゃん付けなんてされたら鳥肌が立つ」

呼び捨てを許してくれたってことは、友達になっても良いってこと……なのかな?

本人は否定しそうだけど、そう思うことにしよう。

それに何だか、この子をみんなと会わせてみたい!

「ねぇハル、良かったら……」

『うるさい、いつまで騒いでるんだ』

どこからか突然、低い声が聞こえてきた。


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