09
バトルの結末から言わせてもらうと、簡単に勝ちました。しかも、ほぼ瞬殺。
オヤジは"手塩にかけて育てたポケモンが!?"と顔を真っ青にしながら、その場に呆然と立ち尽くす。
たぶんあの人のポケモンは愛でられることには慣れていても、ポケモンバトルには慣れていなかったんだろう。
小柄なポケモンが多かったし、勇人のスピードに翻弄されたまま動けてなかった。
ミミロップに至っては、勇人が"挨拶に"と放った雄叫びに涙目になっていた。
実戦経験の無い人と、7つのジムを制覇してきた私たち。誰が見ても勝ち負けは歴然だ。
"何だよ、呆気ねぇな"とボヤいた勇人が擬人化して、オヤジを睨み付ける。
一方オヤジの方はさっきまでの威勢はどこへやら、情けない声を上げながら尻もちをついた。
「よし。まずはそのツラ、1発ぶん殴ってやる」
「ひ、ヒィッ……!?」
「待って勇人、ステイ! "バトル"は良いけど"暴力"はダメだよ!」
指をパキパキと鳴らし始めた勇人に、急いでストップをかける。
そんな不良少年に育てた覚えはないよ、私は!
「……本当なら100発殴っても気は収まらねぇが、レイナがそう言うんじゃ仕方ねぇ。
育て屋の土地とコイツから手を引いたら見逃してやる。不満があんなら、今度はテメェとタイマンやっても良いんだぜ?」
「わ、分かった! この土地も、その娘も諦める!
だから許してくれ、この通りだ!」
今どきドラマでも見ないお手本のような土下座で、オヤジは勇人に向かって深々と頭を下げる。
"だったら今すぐどっか行けよ。2度と来んな"という勇人の言葉と同時に、 リムジンに乗って文字通り逃げ帰って行った。
「あ〜あ、肩慣らしにもなりゃしなかったぜ」
「アイツのポケモン、今回が初めてのポケモンバトルだったのかもな」
「自分のポケモンへの愛情は本物だったのかなぁ? 彼らにとっては、自分たちの住む場所だけが世界だったのかも」
「ケガしない代わりに、外に出られないってこと? 大事にされてても、そんなのつまんない!」
リムジンの走っていった方角を見ながら、みんなが思ったことを口にしていく。
というかそもそも、あの人は何で小さな町にホテルを作ろうとしたんだろう?
経営者の考えることは分からないけど、今はとにかく勝利を喜ぶことにしようかな。
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