02

「……これは姫。どうかされましたか?
喉が乾いたのであれば、すぐにでも飲み物をご用意しますが」

何とか平静を装って主へと声を掛ける。

すると姫は困ったような顔で、小さく"あちゃ〜"と零した。

何か無礼を働いたのだろうかと一瞬血の気が引いたが、よくよく手元を見ると何かが握られている。

「姫、その手に持っているものは……」

俺がそう問うと、観念したようにそれを前方に差し出した。

「カップ麺……?」


「うん、ちょっと小腹が空いちゃって。この時間なら誰も居ないと思ってたんだけどなぁ」

確かに、と心の中で1つ頷く。

夜中にジャンクフードを食べているところを緑炎に見られでもしたら、小一時間の説教(正座付き)は避けられないだろう。

食事の量が少なかったのだろうかと夕食のメニューを思い出すが、十分に腹が脹れるメニューだったように記憶している。

「せっかくだし、白刃も食べる? 1つだと多いから半分こしようよ」

「し、しかしこのような時間にジャンクフードは……」

「大丈夫だよ、毎日食べてるわけじゃないんだし」

ね、と愛らしい笑顔で言われてしまえば断れるはずもなく、俺はケトルで湯を沸かす。

出来上がったカップ麺を2人ではふはふと啜る。

緑炎の作る料理に比べたら随分と塩味が強いが、姫と2人で食べているからか不思議と美味しく感じた。

「美味しいね」

「えぇ、そうですね」

最後の1口を飲み込み、"ご馳走様でした"と手を合わせる姫に自分も倣う。

「緑炎が作ってくれる料理も美味しいんだけどさ、たまーにこういうのが食べたくなるんだよね。
"罪の味"ってやつ? 夜中に食べるラーメンとか、アイスクリームとか。
本来食べちゃいけない時間帯に食べると、余計に美味しく感じるんだよね」

そう語る姫を静かに見つめる。

すると突然"あ!"と声を上げるものだから、思わず面食らってしまう。

「このことは、緑炎には言わないでね。私と白刃、2人だけの秘密だよ」



"2人だけの秘密"──。



俺はこの瞬間、小さな優越感を抱いた。

緑炎が知りえなくて自分だけが知っている、姫との秘密。

自分でも単純だと思うが、ほんの少しだけ緑炎よりも優位に立てた気がして。

俺は穏やかな笑顔で、たった1人の主に誓うのだ。



「もちろん。私と貴女、2人だけの秘密です。
この白刃、姫の御身も貴女との秘密も……必ずお守りしましょう」


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