01

それは満月が美しく輝く、とある夜のことだった。

(今日も何事も無く、姫をお守り出来た)

窓から差し込む月光を眺めながら、PCの食堂で今日1日を反芻する。

記憶の中にある表情は笑顔ばかりで、思い出す度に俺の心は暖かくなった。

(そういえば……)

俺はとあることに気付き、思考に耽る。

あの方はいつも笑顔を絶やさない。

それは当然だ。姫の御身も、笑顔もお守りするのが俺の使命なのだから。

自分のせいであの方の笑顔が曇るようなことは、断じてあってはならない。

だからこそ、どうすればお役に立てるのかを日がな1日考えているわけなのだが……。

(姫は緑炎と一緒にいる時が、1番良い笑顔をなさっているな……)

緑炎……姫の最初の仲間だという、ジュプトルというポケモン。

彼の実力は確かであるし、仲間のために色々世話を焼いてくれて感謝している。

だが、こう考えてしまうこともある。

もしも……



(俺が先に姫と出会っていたならば、あの笑顔を1番近くで見られたのだろうか……?)



そこまで考えて、邪な想いを振り払うように首を振る。

自分は何を考えているのだ、と思わず自嘲した。

姫に向ける忠誠には絶対の自信がある。これだけは自分が1番であると胸を張って言える。

あの方に仕える騎士としてなら自分の方が上だ。

しかし、"姫の相棒"としては緑炎の方が圧倒的に上だ。

ポケモントレーナーにとって最初のポケモンは、とても想い入れの強い存在だと聞いたことがある。

姫は俺たち全員に分け隔てなく御心を割いて下さる。

しかし、あくまであの方にとっての"1番"は緑炎だ。

俺では緑炎の代わりにはなれないし、あの2人の関係に入り込む余地など最初から無いのだ。

(……そろそろ寝るか)

水を飲んでいたグラスを戻そうと、席を立った時だった。



「あれ、白刃?」

凛としたその声を、聞き間違えるはずもない。

出入口から顔を出したのは、今まさに俺が思い浮かべていた主だった。


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