05
「へぇ〜。シャルロットって子、その時まだ赤ちゃんだったんだ」
「そうなの! あの時の衝撃は今でも忘れられないわ!
あんなに可愛い生き物がいるだなんて知りもしなかったんだから!」
「あれ以来、水恋はシャルロットにメロメロでな。
別人とはいえ、瓜二つのフユカを溺愛するのも仕方あるまいよ」
孝炎の隣で烈がドン引きしているのが見えた気がするけど、きっと気のせいよね。
後で首から下を丁寧に凍らせてあげようかしら。
「まぁ、ミアレシティに戻ってから大変だったぜ。
"次はいつあのお屋敷に行けるの"だの、"次はいつあの子に会えるの"だの質問攻めだったからな。
今まで大抵の人間に無関心だったやつが、どんな手のひら返しだと思ったわ」
「だってあんなに可愛い天使なのよ?
初めて歩いた時のよちよち歩き、スヤスヤと眠る寝顔! "愛おしく思うな"っていう方が無理だわ!」
「彩ともお友達になってくれるかな?」
「あぁ、きっとな。むしろ、シャルロットの方から"友達になって欲しい"と言うかもしれぬぞ?」
彩はまだ見ぬ新しい友達に思いを馳せながら、私たちはあの頃の記憶の中にいるシャルロットの面影を思い出しながら"もしも"を夢見る。
私にとってあの子は何よりの宝物……昔も今も私の愛情は変わらない。
10年も経った今となっては、年頃の少女へと成長している時期。
愛らしさはそのままに、大人びた顔つきになっているのでしょうね。例えるなら、そう……フユカのような……。
(あらやだ、私ったらまた……。
自分の知らない別人を重ねられてるなんて、フユカも迷惑なだけよね……。
シャルロット……あなたに会いたい。今、どこで何をしているの?)
あなたがあのお屋敷に戻ってきたら、話したいことがたくさんある。
それに彩はもちろん、フユカたちのことだって紹介したいわ。きっと良いお友達になれると思うの。
「ただいま戻りました。……おや、お茶会ですか?」
カチャリとドアノブを回す音が響き、扉がゆっくりと開く。
顔を覗かせたのは、アレックスについて行っていた氷雨だった。
「あっ、氷雨おかえりー! アレックスと鋼刃は?」
「2人は荷物の片付けに行っています。
あぁ、そうそう。水恋、"彼女"が遊びに来ていますよ」
氷雨のその言葉に体が自然と動いていて、私は小走りでエントランスへと向かう。
そこに立っていたのは……少し驚いた表情を浮かべるフユカの姿。
でも次の瞬間にはパッと笑顔になり、"水姉さん!"と私の名前を呼んだ。
「大事なこと思い出して戻ってきちゃった。
水姉さん、確か今日誕生日だったよね?
緑炎と龍矢に教えてもらいながらケーキ作ったんだけど、食べてくれる?」
「……も……もちろんよ! 私のためにケーキを作ってくれるなんて……私、今日死んでも良いわ!」
「死ぬのはダメだよ!? 水姉さんにはまだまだ元気でいて欲しいんだから!
そんなことより、はい。Joyeux anniversaire、水姉さん!」
「ありがとう、フユカ。写真に収めてから大事に食べるわね」
博士とアレックスが見ていることも気にせず、思い切りフユカを抱き締める。
"ちょっと苦しいよー"と言いながらも、フユカが私の腕の中で笑みを浮かべた。
(あぁ、やっぱり……どちらも私の大切な"宝物"だわ)
この幸せだけは、"あの男"になんて絶対に奪わせない。
シャルロットが屋敷に戻ってきたその時には、2人を目一杯愛したい。
(どうか……)
シャルロットとフユカの笑顔が曇ることなく、健やかに暮らしていけますように……。
カーネーションの花言葉は……"無垢で深い愛"−−。
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