03
今から遡って、10年以上も前−−。
アレックスのポケモンになり、孝炎と鋼刃がメンバー入りしてしばらく経った頃のこと。
プラターヌ博士のおつかいで、私たちはセキタイタウンに向かうことになっていた。
『ミアレシティから結構遠いのね』
「カロスの最西端の町だからな。
……博士が言っていた屋敷はあそこか。鋼刃、降りてくれ」
『御意』
アレックスの指示を受けた鋼刃が、ゆっくりと高度を落としていく。
やがてボールの中からでも屋敷の全貌が見えるようになってきた。
玄関前はもちろん、裏庭らしき場所には色とりどりの花が美しく咲き誇っている。
あそこの青年とビブラーバが手入れをしているのかしら。
アレックスがドアノッカーを鳴らすと、中から初老の男性が出てくる。
その人はアレックスを見て恭しく頭を下げた。
「いらっしゃいませ。当屋敷へどういったご要件でしょうか?」
「初めまして、アレックスと言います。
プラターヌ博士のおつかいで伺いました」
「左様でございましたか。私は執事長のジョゼフと申します。
ポケモンたちも、どうぞゆるりとお寛ぎください」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
アレックスによってモンスターボールから出された私たち。
行動しやすいようにと全員が擬人化するのを見て、ジョゼフという執事がほんの少し目尻を下げるのが見えた。
そしてそのまま応接間へと通され、ソファーへ座るように促される。
「では家主を呼んで参りますので、しばしこちらでお待ちを」
そう言って応接間を出ていくジョゼフを見送りながら、私はキョロキョロと周りを見回した。
(野生で暮らしていた頃には見なかったものばかり……)
そういえば、エントランスの天井にあった照明……あれ"シャンデリア"っていうのよね?
随分精巧な作りだったけど、人間ってみんな手先が器用なのかしら。
隣に座っていた烈に小さな声で窘められると同時に、応接間の扉をノックする音が聞こえる。
ジョゼフと一緒に入ってきたのは、栗色の髪を持つ男性だった。
「失礼、お待たせして申し訳ない。
遠いところよく来てくれたな。この屋敷の当主・テオドールだ」
自らをテオドールと名乗った男性が、アレックスに向けて手を差し出す。
アレックスもまた、彼の手を取って握手を交わした。
「お会いできて光栄です、ムッシュ・テオドール。
僕はアレックス、プラターヌ博士の助手をしています」
「おぉ! プラターヌの言ってた助手っていうのは君だったのか!
あいつからよく話を聞いてるぜ」
そうか、そうかと嬉しそうに笑顔を見せる彼に、私たちもつられて笑みが零れる。
博士から"気さくな人"と聞いてはいたものの、自然と他者を惹きつけるような魅力を感じる人だと思った。
義理のお兄さんって聞いた時は、少し驚いたけど。
[*prev] [next#]
TOP