02



「ん〜! 美味しい〜!」



彩が満面の笑みで破顔するのを見て、手に取ったメレンゲクッキーを1齧り。

素朴な味わいと甘さが口に広がり、優しく溶けていった。

あまりの美味しさについ箱を見ると、白地に青い文字で"petit bonheur(小さな幸福)"と書かれている。

確かにスイーツを食べる時は自然と笑顔になるから、良い名前のお店ね。

「本当、すごく美味しいわ。
初めて聞く名前のお店だけど、孝炎ったらいつの間に行きつけにしていたの?」

「なんだ、気付いていなかったのか。
今まで我が買ってきた菓子は、みなその店のものだというのに」

そう言われて思い返してみれば、確かに孝炎の買ってくるケーキやスイーツはどれも絶品だった。

というか今までは箱から出された状態で食卓に並んでいたから、単純に私が知らなかっただけだったわね。

「菓子で思い出したが、ガラルには全身がクリームでできたポケモンがいるらしいな」

ブラックコーヒーを飲みながら呟いた烈の言葉に、彩が鋭く反応する。

私たちメンバーの中で1番甘いものが好きなこの子にとって、興味を引くに十分な話題なのだろう。

「えっ、そうなの!? 会ってみたいけど、ガラルかぁ……」

「そういえば、以前シャーリーがガラルでフェアリータイプを仲間にしたと聞いたな。
クリームのポケモンかどうかは分からぬが」

「へぇ! じゃあ今度お屋敷行ったら会わせてもらおっと!」

シャーリーは確かフェアリータイプが大の苦手だったように思うけれど、何か心境の変化でもあったのかしら。

あの子もあの子で成長しているのね。

「フユカも確か、ガラルに行ったことがあるって言ってたわね。
……あぁもう、やっぱり無理だわ! 博士のスマホにあの子の連絡先入ってないかしら!?」

「博士は今アレックスとシャラシティだ残念だったな」

烈が矢継ぎ早(というかノンブレスで)そう言い放つ。

明後日の方向を向いているその目には、"また始まった"という色がありありと現われていた。

「水恋がフユカと仲良しなのは知ってるし、彩もフユカのことは好きだけど……。
どうしてそんなに大好きになったの?」

「え? そうねぇ……やっぱり雰囲気がシャルロットに似ているからかしら。
フユカとあの子が別人だって言うのは分かってるつもりなんだけど」

「シャルロットって、あのお屋敷にいたって女の子? どうやって知り合ったの?」

「……あぁ、そうか。彩が我らの仲間となったのは、ここ2〜3年前であったな」

孝炎が愛用の湯のみで緑茶を啜り、そう零す。

確かにシャルロットが行方不明になったのは、もう10年も前のこと。

彩があの子のことを知らないのも無理ないわね。

「じゃあ聞かせてあげるわ。私とシャルロットの運命の出会いの話!」

「おい、そのセリフだけ切り取ると恋バナでも始まるみてぇだろうが。
彩、悪いことは言わねぇからやめとけ。そいつにシャルロットの話させると長ぇぞ」

「え〜。でも彩、気になる〜」

「まぁ、そう言うな。たまには想い出に浸るのも良いではないか」

烈はやれやれと言うようにため息をつくと、それぞれのカップに飲み物を追加していく。

それをOKサインと受け取ることにして、私はあの頃の記憶を辿った。


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