04




「じゃあ始めるよー? せーの!」

「「「來夢、お誕生日おめでとう!」」」

「あ、ありがとう……!」



パーン! というクラッカーの音と一緒に、來夢の誕生日パーティーが幕を上げる。

たくさんの料理に舌鼓を打ちながら、みんなが思い思いに歓談を始めた。

笑理が口いっぱいにオムライスを頬張り、口元に付いたケチャップを澪が拭いてあげて。

誠士と緋色の料理メンズは、早くも明日の朝食の話題に花を咲かせている。

青刃は食事をしつつ全員のグラスを見て飲み物を注いで回っているし、一足先に食事を終えた幸矢も"おかわりはいるか"と聞いて回っている。

楽しい時間が流れていく中、1人だけ考え込んでいるような表情をしているメンバーがいた。

「どうしたよ、銀嶺? さっきから難しい顔してっけどよ」

「料理が口に合わなかっただろうか」

「そうじゃねぇ。飯はちゃんと美味いから安心しろ」

「はには……何か気になることでもあるの?」

「気になるっていやぁ、そうなんだが……」

どうしたんだろう? 銀嶺にしては珍しく歯切れが悪い。

彼はいつもハッキリと物を言うから、何かを言い淀んでいるというのは見たことが無かった。

そして数秒の間の後、銀嶺は來夢を呼んだ。

「……! な、何?」

「そう怖がるんじゃねぇ。別に獲って食いやしねぇよ。
昼間に小娘が開いてたアルバム……あれに写ってた緑のはてめぇか?」

「え? うん、そうだけど……」

「あ、そっか。みんなが來夢と初めて会った時は、もうランクルスだったもんね。
だけど、それがどうかしたの?」

「あの緑の丸いのが進化前だってんなら、てめぇはどうやってそこまで進化した?」

來夢に向けられた銀嶺の紅い瞳が、スッと細められる。

それを合図にしたかのように全員が一様に來夢の方を見た。

「それは……どういう意味?」

普段の眠そうな雰囲気が鳴りを潜めた澪の表情に、和やかだった空気が一変した気がした。

「ポケモンはトレーナーと一緒にバトルの経験を積んで進化するのが基本的な条件だ。特殊な進化条件のあるヤツ以外はな。
だが來夢の小娘は人見知りが激しい上に、自分から好んでバトルを申し込むような性格じゃねぇ。
ましてや10年近くも1匹でこの家に居続けたってんなら、バトルも無しに進化するなんて考えられねぇだろうが」

「言われてみればそうだな。ランクルスという種族も、本来はシンオウ地方に生息例の無いポケモンだ。
……レイナ、來夢とはどんな風に出会ったんだい?」

「えっと、確か……」

銀嶺の話を聞いて、私もつい來夢の方を見る。この子はある日突然、お母さんがイッシュ地方での仕事から戻ってくる時に保護したポケモンだった。

"保護"というよりは、この子がリュックに潜り込んでいることを知らずにシンオウへ帰ってきたっていう方が正しいのだろうけど。

もちろんお母さんはすぐにポケモンセンターと警察署に電話して、ジョーイさんやジュンサーさんに相談した。

本来他の地方のポケモンを野生へ帰す場合は、ジュンサーさんに保護申請を出した上で元の生息エリアに帰されるらしい。

でも來夢が私の傍を離れようとせず、どれだけジュンサーさんに引き渡しても涙目で戻ってきてしまうので、うちで引き取ることにした……という経緯があった。

記憶を引っ張り出す限り、小さい頃に最後に見た來夢は確かにまだユニランだった。

でも10年の月日が経ってシンジ湖で再会した時には、最終進化系のランクルスの姿になっていた。

あの時は自分の記憶が戻っていないこともあって、あまり深くは考えなかったけど……。

冷静になって考えてみれば、人見知りの激しい來夢が1人でここまで成長したとは考えづらいのも事実だった。

「……ごめん」

「來夢?」

「隠すつもりは無かったし、いつかは話さなくちゃいけないって思ってたんだけど……聞いてくれる?」

みんなが驚きながら顔を見合わせる。再び視線が向けられるのを合図に、來夢はこの10年間にあったことをポツポツと話し始めた。



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