09




「……うん、美味しい」



固唾を飲んで見守る中、彼女の口から発せられたのは"美味しい"の1言だった。

「ほ、本当に!? ……実は、表面を少し焦がしてしまったんだ。
僕に気を使って、無理してないかい?」

「大丈夫、ちゃんと美味しいよ。これくらいの苦味なら、良いアクセントなんじゃないかな」

その言葉にホッと胸を撫で下ろす。

彼女の笑顔が見られた。それだけでも"やっぱり手作りして良かった"と、心からそう思う。

「苦みをカバーするなら、粉砂糖を振ってあげると良いかもね」

(粉砂糖か……)

完成したことについ浮き足立ってしまって、その発想が無かった。

やっぱりレイナは普段からお菓子を作り慣れているのもあって、知識も経験も豊富だな。

「レイナ、今度僕にお菓子作りを教えてくれないかな。
色々と経験を積んで、次はもっと美味しいものを作れるようになりたいんだ」

「もちろん! 初心者向けのお菓子のレシピ、探してみるね」

「お菓子の試食ならあたしに任せて!」

「あっ、笑理だけズルい! 僕も試食係やりたい!」

「俺もやりたーい! ねぇ良いでしょナオト、レイナ?」

「小僧どもはつまみ食いしてぇだけだろうが」

試食係を申し出た笑理、焔、天馬の3人に、銀嶺が呆れたようにそう零す。

それを見たレイナもクスクスと笑った。

「フフッ、そうだね。3人には味見してもらおうかな。
遠慮はいらないから率直な意見を言ってあげてよ」

「お、お手柔らかに頼む……」

ドッと笑いが起き、この賑やかな時間を彩っていく。

僕にとっても、みんなにとっても。今年のホワイトデーは忘れられない思い出になったのだった。



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