08

全員で夕食を食べて少し経った頃。

緋色と誠士からレイナ、來夢、笑理の3人へブラウニーが手渡される。

緋色のはナッツ、誠士のはドライフルーツが使われているらしいそれを、3人は嬉しそうに受け取った。

「わぁ、美味しそう! ありがとう誠士、緋色!」

「大事に食べるね」

「? どうしたの、幸矢?」

「これは俺からだ」

幸矢がレイナたちに細長い箱をそれぞれ手渡す。

箱の中身を見た3人の顔に、満面の笑みが咲いた。

「これ……ネックレス?」

「あぁ。トップの花が何かは、もう言われなくても分かるだろ?」

レイナの隣から覗き込んだ先に見えたのは、グラシデアの花のトップが愛らしいネックレスだった。

ポケモンセンターの部屋を借りて作っていたのは、これだったのか。

彼が真剣な顔でこのネックレスを作っていたのかと思うと、微笑ましい反面ギャップを感じずにはいられない。

「ありがとう、幸矢。大事にするよ」

「今度お出かけする時に、3人でお揃いで付けてみない?」

「來夢ナイスアイデア! あたしもさんせー!」

「他のメンツは料理もハンドメイドもできねぇから、部屋の飾り付けは頑張ったぜ」

「風船を割らないようにするのは苦労したけどな」

「飛べるからって原型で風船掴もうとするからだよ……。
僕ちょっと疲れたし、後は寝てても良いよね?」

「澪、まだ寝ようとするな。
ホワイトデーのお返しとしては、何とも力不足なのが口惜しいですが……。
気に入っていただけたでしょうか、奥様?」

「力不足だなんて、そんなことないよ青刃。みんなもありがとうね」

賑やかな空気が流れる中、誰かがトンと僕の背を小突いた。

振り向けば緋色が"早く渡せ"と言わんばかりに目を細めている。

僕は1つ深呼吸をし、意を決してレイナの名前を呼んだ。

「……レイナ」

「うん? なぁに、ナオト?」

「その……ぼ、僕からも君に……」

差し出した手の上に乗った、水色のカラーリングでラッピングされたブラウニー。

レイナはそれを見て目を見開いた。

「えっ、これナオトが作ったの!?」

「あ、いや! 僕1人でという訳ではなくて!
……緋色と誠士に教えてもらいながら作ったんだ。
料理は苦手だし自信は無いけど、それでもちゃんとお返ししたかった」

「そうなんだ……。ありがとう、とっても嬉しい」

そう言ってニッコリと笑うレイナを見て、僕の心に暖かいものが広がっていくのを感じた。

「ただ、少し失ぱ……えっ」

表面を焦がしてしまったことを言おうとした時にはもう遅くて。

彼女はブラウニーを1つ摘むと、モグモグと食べ始めた。

飲み込んだ後にどんな反応をするのか気になって、僕の手は自然と力が入っていた。



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