07

静かなキッチンに、焼き上がりを知らせるアラームが響く。

オーブンから容器を取り出し、型から抜いて粗熱を取る。

端っこを綺麗に切り揃えれば、何とか見栄えのするブラウニーが完成した。

「……。できた……」

「おぅ、お疲れさん。最初に比べりゃ随分マシになったじゃねぇか」

「あぁ。これならレイナも喜ぶだろう」

やり切った達成感のせいか、全身の力が抜けそうになる。

最後の仕上げとして丁寧にラッピングし、冷蔵庫へと入れた。

「料理もお菓子作りも奥が深いんだな。
毎回これだけの手間をかけて作ってくれているんだと思うと、本当にレイナと緋色たちには頭が上がらないよ」

「そう言われて悪い気はしないが、ブラウニーは……いや、やめておこう。
ずっと気を張っていて疲れただろう。片付けは私と緋色でやっておくから、ナオトは休むと良い」

「お言葉に甘えさせてもらおうかな。2人とも、今日はありがとう」

そう言いながら、ふと視界に入ったブラウニーの切り落としを自分の口に放り込む。

そして咀嚼を始めた瞬間……僕は固まった。

「ナオト? おい、どうした?」

「に、苦い……」

驚くほど強くはないものの、生地の表面から確かに苦味を感じる。

ビターチョコレートのようなほろ苦さではなく、完全に焦がした時の苦さだった。

「……。あー、確かに苦味が強ぇな。
こりゃオーブンのせいだ。何回も焼いたもんで、中が高温な状態が続いてたんだろ」

「そんな……上手くできたと思ったのに……」

「味そのものが悪い訳ではない。これくらいの苦味なら許容範囲だろう」

"笑理は苦手かもしれないが"と付け加えた誠士の言葉がグサリと刺さる。

これを彼女が食べて、もし笑理と同じレベルで苦いものが苦手だったら。

1度そう考えてしまうと、本当にこれを渡して良いのか不安が募る。

「まぁ1番大事なのは気持ちだ、気持ち。
菓子作り自体は、来年またリベンジすりゃ良いじゃねぇか。
もうじきレイナも戻ってくるしよ」

「そう……だな……」

玄関から聞こえてくる"ただいまー"という彼女の声。

少しばかり重い不安を抱えながら、僕はキッチンを後にした。



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