06
失敗に次ぐ失敗を重ね、悪戦苦闘すること数時間。
窓側をチラリと見ると、もう空はすっかりオレンジ色に染まっている。
刻一刻とタイムリミットが迫ってくる中、僕は少し……いや、かなり焦りを感じていた。
今の時刻は午後5時。あと1時間以内に完成させなければ、レイナが戻ってきてしまう。
材料も次第に底をつき始めた。これ以上失敗する訳には行かない。
「お前が料理苦手なのは知ってたが……まさかここまでとは思ってなかったぜ」
「す、すまない……。教えられた通りにやってはいるつもりなんだが……」
「残りの材料と調理時間。諸々を考えると、あと1回が限界だな」
「だな。こうなったら覚悟決めろよ、ナオト。
泣いても笑っても次で最後だ。同じ失敗しねぇように気を付けてやってみろ」
「あぁ、次こそは……!」
気合いを入れ直すため両手で頬をパン! と挟み込むように叩く。
包丁と板チョコを手に取り、再び意識を集中した。
トン……トン……トン……と、ゆっくりとした包丁の音がキッチンに響く。
真剣な顔をしてチョコレートを刻むナオトを、誠士と一緒になって見ていた。
(しっかし、あのナオトがなぁ……)
アイツが"手作りのお菓子を作りたい"と言い出した時は、本当に驚いた。
今までにアイツがキッチンに立ったことは、たったの1度しかない。
サンドイッチに使うスクランブルエッグを作るよう頼んだが、でき上がったのは表面の焦げた炒り卵。
それからというもの料理は俺1人が担当することになり、あれ以来ナオトをキッチンに立たせることはなかった。
アイツもアイツで自分の料理スキルに思うところがあったらしく、調理を手伝うことはなくなってしまった。
(まだ危なっかしいが、だいぶそれらしくなってきたじゃねぇの)
最初はどうなることかと思ったものの、2人で根気強く教えたのが功を奏したのか、今のアイツの動きに問題はない。
チョコレートの湯煎も滞りなくできている。
(唯一心配なのは……アレだな)
"アレ"のある方へチラリと視線を横にやるが、もう時間がない。
後のことは……成るに任せるしかねぇよな。
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