03
「ホワイトデー?」
"ホワイトデーのお菓子を作りたい"と緋色に伝えたところ、酷く呆気に取られたような顔をされた。
僕の料理の腕を知っているが故だろうかと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。
「あぁ。先月のバレンタインで、レイナがチョコレートケーキを作ってくれただろう?
ホワイトデーはそのお返しをする日なんだ」
「ほーん……人間ってのは色々と面白いこと考えるな。
つか俺だって、料理なら何でも得意ってわけじゃねぇぞ。
菓子作りに関してはむしろレイナに教わりてぇくらいだ」
耳に飛び込んできた彼の発言に思わず目を丸くする。
あの緋色があそこまで言うのだ。それだけレイナの菓子作りのスキルが相当なレベルなのだと分かる。
彼女は"育て屋を持ってみたい"という僕の夢を尊重してくれたが、洋菓子店を経営する方が良いのではないかとさえ思ってしまう。
作れるのだろうか、僕に。彼女を満足させられるほどのお菓子を。
「おい、んな辛気くせぇ顔すんなよ。
つまりはお前の気持ちがレイナに伝わりゃ良いんだろ?
俺に良い考えがある。ナオト、明日の予定は絶対に空けとけよ」
「えっ? あ、あぁ……」
"んじゃま、俺はちっとばかり席外すわ"と言って、手をヒラヒラと振りながら緋色が部屋を出る。
どことなく楽しそうな後ろ姿を、僕は呆然としながら見送った。
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