01
「……」
ハァ……と呟いた自分の声が、嫌に大きく聞こえる。
今日になって何度ため息をついたか分からない。
これは完全に僕にとって大失態であり、一大事なのだ。
よりにもよって……そうだ、よりにもよって−−
(何故前日になってからホワイトデーの存在を思い出したんだ……!)
ホワイトデー。
カントーやジョウトで始まり、今ではホウエンやシンオウでも一般的になっているイベント。
東の地方特有の風習だそうだが、最近ではカロスやイッシュといった西の地方にも少しずつ広まりつつある。
……と、テレビで見たのがついさっきのこと。
そう。僕はそんな大事な日を、前日の今日になって思い出したのだ。
(今からでもデパートに……いや、しかし……)
例えお店で買ってきた既製品だったとしても、彼女は喜んでくれるだろう。
でもそれは、僕のプライドがどうしても許さなかった。
彼女はバレンタインの日、とても美味しいチョコレートケーキを作ってくれた。
その苦労と愛情に報いるためには、手作りしか考えられなかった。
だが既にみんなが知っている通り、僕は料理の腕が壊滅的で。
"手作り"などと言葉にするのは簡単だ。
だが今の自分の実力が追い付くのかと言われれば、これ以上絶望的なことは無いだろう。
レイナはというと、僕と暮らし始めてから緋色と誠士に料理を教わっている。
初めは緋色もその必要性があるのか疑問に思っていたが、彼女の強い希望もあって誠士と一緒に指南役を引き受けたのだ。
お菓子作りが得意なこともあって飲み込みが早く、元々の手際の良さも相まってメキメキと上達している。
そんな彼女に釣り合う男でいたい……。そう思うのは僕にとって至極当然のことだった。
なのだが……今の僕の気持ちと料理のスキルは全くもって別問題である。
(どうしたものか……)
目線をカレンダーに戻し、再度大きなため息をついた。
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