12
「レイナ、これを渡しておく」
「何?」
お兄ちゃんから手渡されたのは、灯台をモチーフにしたような金属製の何かだった。
「ナギサジムで俺に勝った証・ビーコンバッジだ」
「えっ!? ジムバッジは無くて良いって言ったのに!」
「良いんだ。心配かけた迷惑料ってことで受け取ってくれ」
どうしたものかとオロオロしていると、オーバさんが"良いじゃねぇか"と笑う。
「貰えるものは貰っておきな、レイナ。
実際、バッジを渡すのに相応しいバトルだったしよ!
あの時の約束、忘れてなかったら明日ここでバトルしようぜ。良いだろ、デンジ?」
「? オーバとバトルの約束なんてしてたのか、レイナ?」
「あ、うん。オーバさんのゴウカザルと私のゴウカザルで、いつかバトルしようって言われてたんだ。
私たちにとっても良い経験になると思いますし、よろしくお願いします」
「じゃあ僕たちは、そろそろポケモンセンターに戻ろうか。
君のポケモンたちを休ませてあげないと」
「そうだね。デンジお兄ちゃん、オーバさん、また明日」
そう言って踵を返した時、"ちょーっと待ったー!"と声が聞こえた。
そういえばライチュウに挨拶してなかったな、と思いつつ振り返ると……。
そこには白いタキシードを羽織ったライチュウが立っていた。
手には花束が握られていて、思わずキョトンとしてしまう。
「どうしたよ、ライチュウ? 急におめかしして……」
『ライチュウに進化して、レイナに会えたら伝えようと思っていたことがあるんだ。
初めて会った時に一目惚れしました! レイナ、僕と……僕と、ずっと一緒にいてください!』
「は、えっ? ええっ!?」
ライチュウが手にした花束を、ズイッと私に差し出してくる。
ずっと一緒に、って……どういうこと!?
「ライチュウ、やけにお前に懐いてるとは思ってたが……そういうことか」
『僕、前に本で読んだんだ。"人と結婚したポケモンがいた、ポケモンと結婚した人がいた"って。
結婚が何なのかは正直分からないけど、でも僕は世界で1番レイナのことが好きです!』
ま、まさかポケモンにプロポーズされるとは思わなかったよ! しかもお兄ちゃんのライチュウに!
でもここは、彼の想いを尊重しつつ丁重にお断りしないと……!
「あの、ありがとうライチュウ。その気持ちはとっても嬉しいよ。
でも……ごめんね。私にはもう心に決めた人がいるから」
"え゛っ!"という言葉と一緒に、ライチュウが激しく落ち込む。
それを見ていたお兄ちゃんが"やれやれ"と肩を竦めた。
「ライチュウのメンタルケアは俺の方でやっておく。
それよりレイナ、1つ気になったことがあるんだが……」
「ん、何?」
「ナオト君は、お前とどういう関係なんだ?」
あ、そっか。
自己紹介はしたけど、私たちの関係はまだ言ってなかったっけ。うっかりしてたよ。
「彼と私は、その……婚約者、です……」
気恥ずかしさから声がしりすぼみになってしまったけど、近くにいる彼らが聞き漏らすはずも無く。
特にライチュウはガバッ! と上を見上げてきた。
『こんやくしゃ、って……何?』
「えっと……結婚を約束した相手ってことだよ。今すぐにじゃないけど」
「諦めろよ、ライチュウ。お前の恋は燃え尽きちまったんだ……」
『う、嘘だぁ! 僕からレイナを奪おうったってそうは行かない!
決闘だ……僕より弱い男にレイナは渡さないぞぉ!』
「何か娘の結婚に反対する父親みたいなこと言ってる!?」
その後ライチュウはデンジお兄ちゃんに連れられて強制退場。
波乱のポケモンバトルは幕を閉じたのだった。
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