03
突然下の方から聞こえてきた、明らかにみんなのものとは違う声。
今までソファーから見上げてて気付かなかったけど、私の足元にはライチュウがちょこんと立っていた。
「ライチュウ!? どうしてここに!?」
『エヘへー、ついて来ちゃった!』
「き、来ちゃったって……。お兄ちゃんと一緒にいなくて良いの?」
『デンジにはオーバがついてるから大丈夫。
それよりも会いたかったよレイナー!』
ライチュウがソファーによじ登ってきたかと思ったら、灯台の時みたいにこれでもかって勢いで頬擦りしてくる。
ピチューだった頃からスキンシップは激しい方だったけど、まさかライチュウになってからも変わってないとは……。
「奥様、このライチュウをご存知で?」
「うん、さっき話したジムリーダーのポケモンだよ。
彼とはピチューの頃からの付き合いだから、私もよく一緒に遊んでたんだ」
その言葉を聞いた來夢が、目を大きく見開く。
すると驚いたような、何かを噛み締めるかのような声音で私を呼んだ。
「ライチュウのことを思い出したってことは……小さい頃の記憶も戻ったの?」
「……うん、思い出したよ。ずっとこの街で暮らしてたことも、他の子の輪に入れなかった私をお兄ちゃんが気に掛けてくれてたことも、私の隣に來夢がいてくれたことも。
來夢、長い間1人にしちゃっててごめん。ユニランだった頃から、ずっと一緒にいてくれたのにね」
「うぅん……。うぅん、もう良いんだよレイナ。
ちゃんと戻ってきてくれて、こうして今一緒にいられるだけで……私はもう十分幸せなんだから」
目尻に浮かんだ涙を、グイッと拭う來夢。
そんな彼女を見てふと疑問に思ったことを聞いてみようとしたけれど、それは天馬の声に遮られてしまった。
まぁ、今どうしても聞かなきゃいけない内容ではないから良いか。
「そういえばさっき"お兄ちゃん"って言ってたけど、レイナはそのジムリーダーと兄妹なの?」
「兄妹じゃないけど、幼馴染かな。
小さい頃に色々と面倒見てくれて、遊び相手にもなってくれたんだ。
私がポケモントレーナを目指すようになったのも、デンジお兄ちゃんの影響なんだよね」
でもその本人があんな状態だなんて。
何だかとても悔しくて、膝の上で組んだ手に力を入れてしまう。
「だから、私はお兄ちゃんとバトルする。ポケモントレーナーとしての私を全力でぶつける。
せっかくの旅行だったのに、私のワガママで水を差しちゃってるのは悪いと思ってるよ。
……でも、あんなのほっとけない。お兄ちゃんにはちゃんと目を覚ましてもらわないと困るんだから」
「アンタは良いのか、それで」
幸矢がライチュウを見ながらそう問い掛ける。
ライチュウは"うん"とハッキリ答えた。
『もう、僕たちじゃデンジを説得できないんだ。
だから僕もエレキブルたちも、今回のバトルに賭けるしかないんだよ』
ライチュウの言葉に、幸矢の肩が分かりやすく跳ねた。
かと思うと、今度は僅かに眉間にシワが寄る。
(あっ、そういえば……)
そうだよ、幸矢にエレキブルの話はトラウマ案件だった……!
「……エレキブルがいるのか、アンタの仲間に」
『うん、そう。僕の次に仲間になったんだよねー。
身体は大きいけど優しいヤツだよ』
「……。そうか、エレキブルが……」
幸矢はポツリと呟いたかと思うと、真っ直ぐ私を見据えた。
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