06
「嫌がる女性を無理矢理連れて行こうとするなんて、穏やかじゃないね」
「ポッド1人に全て任せるつもりはありません。
お互い3人同士ですから、3vs3のマルチバトルでどうでしょう?」
赤い髪のウェイターに続く声の主は、緑の髪の男性と青い髪の男性。
この2人もまた、ウェイターの服を着ていた。
「よっしゃ! 行くぜデント、コーン!」
「お、おい……。ポッドにデント、コーンって……!」
「コイツら、サンヨウジムのジムリーダー!?」
「え?」
この3人がジムリーダー?
カフェかレストランのホールスタッフにしか見えないんだけど……。
「おや、コーンたちを知っているのなら話は早いですね。
それで、どうします? こちらとしては戦わず穏便に済ませたいのですが……」
今日はジム戦も控えていることですし、と微笑むコーンという男性。
口調や物腰は丁寧だけど有無を言わせないオーラを感じて、思わず小さく息を飲んだ。
「それに、君たちだって悪目立ちはしたくないだろう?
ここは街の大通り。人も多いから、騒ぎが大きくなれば間違いなく警察に通報が行くだろうね」
「……チッ、行こうぜ」
ジムリーダー3人に凄まれ、相手の3人組は舌打ちをして去っていった。
それと同時に翠姫がモンスターボールから飛び出してきて擬人化する。
オロオロと私のことを心配してくれる彼女に、"大丈夫"と言って落ち着かせた。
「危ないところでしたね。お怪我はありませんか?」
突如掛けられた声に振り向くと、その声の主は青い髪のウェイターだった。
「……別に。腕を掴まれただけなので」
「下がれ、ハル。次こそはそなたに指1本触れさせぬからな!」
「え、何で俺ら睨まれてんだ? 助けた方だよな?」
「さっきの男どもからハルを助けたことには礼を言う。
しかしそれはそれ、これはこれじゃ」
「うーん……どうやらご機嫌ナナメなテイストかな?」
「翠姫、大丈夫だから」
優しく翠姫の頭を撫でてあげると渋々引き下がる。
それでも私の腕にしがみついたまま、ウェイターの3人を睨みつけていた。
「君は……さっきモンスターボールから出てきたツタージャかい?
擬人化ができるなんて、とても仲が良いんだね」
「……この子と仲が良いのは否定しませんけど、何故そこで擬人化が出てくるんです?」
私の言葉を聞いた緑の髪のウェイターはクスリと笑みを零すと、擬人化について簡単な説明を始めた。
彼が言うには"擬人化が報告されているポケモン"はかなり数が少ないらしく、そのメカニズムは未だ謎に包まれているらしい。
「ただ、1つだけ近年の研究で分かってきたことがあってね。
擬人化できるポケモンとそのトレーナーは、強い絆で結ばれているそうだよ」
「絆……」
あぁ、そうか。だから彼は"とても仲良し"と言ったのか。
今は無理でも、紫闇ともそんな関係になっていけたら良いな……。
(って……今はそんなこと考えてる場合じゃなかった)
この3人が本当にジムリーダーなら、今日のジム戦の対戦相手ということだ。
色んな意味で気を抜く訳にはいかない。
「やべ、もうこんな時間じゃねぇか!
チャレンジャーが来る前にジムに戻らねぇと……」
「別に良いです。ジムには向かってる途中だったんで」
「"ジムに向かってる"?
……なるほど、今日のチャレンジャーはあなたでしたか」
「それはグッドタイミングだね。じゃあサンヨウジムまでエスコートするよ」
「……」
「近寄るでない! 道中でハルに何かすれば、わらわが承知せぬからな!」
「何か当たりキツくねぇか、この2人?」
何の偶然か私たちはサンヨウのジムリーダーとバッタリ出会い、ポケモンジムまで一緒に行くことになるのだった。
[*prev] [next#]
TOP