03
全員でテーブルを囲み、いただきますと手を合わせる。
パンに挟まれているのはベーコンと、レタスにトマト……いわゆるBLTサンドだ。
ベーコンはカリカリに焼かれていてジューシーな油が滴り、レタスはシャキシャキとした歯応えがある。
トマトもとても瑞々しく、うっかりすると水分が零れていってしまいそうで。
……うん。端的に言うと、すごく美味しい。
「味はどうじゃ、ハルよ?」
「美味しいよ。翠姫って料理できるんだね」
「そうか、そうか! そなたのために、わらわが手ずから作った料理じゃ。
遠慮せずたらふく食べるが良いぞ!」
そう言って自分の分を美味しそうに食べ始めた翠姫。
トマトの水分が口元に付いていたので、紙ナプキンで拭き取ってあげた。
そんな翠姫の反対側では、紫闇がジーッとサンドウィッチを眺めている。
「どうしたの、紫闇。お腹空いてない?」
『……。変な物は入れてないだろうな、ツタージャ?』
ジトッと疑いの目を向ける紫闇に、翠姫が小さく鼻を鳴らす。
一触即発の空気を感じたものの、ひとまず固唾を呑みながら成り行きを見守った。
「何じゃ? よもや貴様、わらわの作る料理が食せぬと言うのか?
わらわとて貴様の分まで作るのは不本意じゃ。しかしそれではハルが悲しむ故、特・別・に! 作ってやったまでよ。
ありがたく食し、その美味に泣いて喜ぶが良い」
『……』
訝しげな視線はそのままで、サンドウィッチを手に取って1口頬張る紫闇。
その瞬間、彼が盛大にむせた−−。
『!? ゲホッ、ゲホッ!
……な、んだこれ……辛っ!?』
「フハハハ! 無様よな、ひねくれ化け狐!
特別に作ってやったのは真実じゃが、男相手に普通の料理を作る訳が無かろう!」
慌ててコップに水を入れて紫闇に差し出す。
彼はそれをひったくるように奪い取ると、ゴクゴクと勢い良く飲み干した。
目尻に涙を浮かべながら肩で息を切る紫闇を見て、翠姫は勝ち誇ったようにカラカラと笑っている。
『……ハァ……ハァ……お前、何入れやがった!?』
「何ということはない。貴様の分にはトマトの代わりにマトマの実を入れたのじゃ」
「マトマの実?」
初めて聞く名前だけど、実って言うからには木の実か何かなのかな。
『マトマの実って言やぁトップクラスの激辛木の実だろうが!
……クソッ、ロクでもねぇもん入れやがって!』
「木の実である以上、マトマの実も立派な食材。別に変な物ではなかろう?」
『この天邪鬼女……! 俺よりお前の方がよっぽどひねくれてんじゃねぇか!』
「ちょっと2人とも、ケンカしないで!
紫闇、サンドウィッチなら私のあげるから」
大ゲンカを始めた2人を何とか宥め、私と紫闇のサンドウィッチを交換する。
1口食べるも、"舌が麻痺して味が分からん"と悪態をついた。
紫闇の物だったサンドウィッチを1口齧ると、口の中に痛いくらいの刺激が走った。
「なっ……ハル!?」
翠姫がこの世の終わりでも見るかのような青ざめた顔で私を見る。
紫闇も珍しく金色の目を見開いて私を凝視していた。
「確かに辛い……けど、食べられなくはないかな」
「ま、まことか……? わらわに気を遣って、無理をしているのではあるまいな?」
「無理はしてないよ。
むしろこのくらいの辛さの方が、私は好きかも」
『よくそんな劇物を平気な顔で食えるな……』
紫闇がげんなりとした顔でそう零す。
私はそのまま、激辛サンドウィッチを完食したのだった。
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