02
カーテンの隙間から差し込む太陽の日差しで目を覚ます。
ぼんやりとしている頭を回転させ、私は部屋の中を見回した。
何の変哲もないベッド、どの部屋にもあるであろう姿見。
ベッドの隣にあるサイドテーブルにはボールベルトが置いてあり、さらにその隣では紫闇が目を閉じている。
ようやく覚醒し始めてきたところで、私はある異変に気付いた。
(翠姫がいない……?)
ベッドで一緒に寝ていたはずの、翠姫の姿が無かったのだ。
サァッと血の気が引くような感覚を感じ、勢い良くベッドから下りた。
(部屋の外に出て、そのまま迷子? それとも誘拐?)
好奇心の旺盛なあの子の事だ。女性には何の疑いも無くついて行く可能性はあるし、男性が相手なら力ずくで連れて行かれる場合だってある。
もし、それがポケモンハンターだったなら……。
「翠姫……!」
ドタバタと慌てて着替え始めた私の様子に、紫闇が"おい"と私を呼んだ。
その声音には"うるさい"と言いたげな色が滲んでいる。
『さっきから何の騒ぎだ』
「翠姫がいない。部屋の外に出ちゃったみたいだし、探しに行かなきゃ……!」
『ほっとけ。どうせひょっこり戻ってくるだろ』
「でも……」
「ハルよ、目覚めるが良い! 今日も良き晴天じゃぞ!」
宿泊部屋内部に、翠姫の元気の良い声が響く。
紫闇をチラリと見やると、彼の金色の瞳が"ほら見ろ"と言っている気がした。
勢い良く開いたドアの向こうでは、翠姫がニコニコと笑って立っている。
その屈託のない笑顔に安心すると同時に、彼女が手に持っているトレーに目が行った。
「おはよう、翠姫。……で、そのトレーはどうしたの?」
「うむ、よくぞ聞いてくれた!
ハルのために、サンドウィッチとやらを作ってみたぞ!」
ドヤッと胸を張る翠姫の言葉を脳内で反芻する。
サンドウィッチを、"作った"……?
「そんな……。本来なら、私が君たちのご飯を用意しなくちゃいけないのに……」
「気にするでない。今回は切って挟むだけじゃが、なかなかに楽しかったぞ。
それとも……ハルはわらわの作る料理は、食べたくないか?」
シュンとしょげた顔をする翠姫に、"そんなことはないよ"と返す。
……そうだ。これは彼女が自分からやることを選んだんだ。
"楽しかった"と言っているのだから、今の私がするべきは彼女の気持ちを素直に受け取ることなのだ。
Nのチョロネコとバトルした時のように、また私は個人の感情だけで判断するところだった。
「ありがとう、翠姫。せっかくだし、いただくよ」
その言葉にパアッと笑顔を見せる翠姫を見て、私は強くこう思うのだ。
この癖、直さないとな……。
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