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「これを、こうして……。うむ、では始めるとしよう」

無人のキッチンで身なりを整え、まな板と包丁を前にする。

左の方にはボウルやザルなどの調理器具とこれから使う食材、そして右の方にはハルに頼んで買ってもらったレシピ本。

そう、わらわは今……"料理"とやらに挑もうとしている。

(あまり手の込んだ物はまだ作れぬが、これならばわらわでも作れよう)

開いて立て掛けたレシピ本のページに写るは、サンドウィッチ。

煮炊きや焼きなどの行程がほぼ無く、初心者でも作りやすいという料理。

わらわとハルの旅は始まったばかり故、料理を学ぶ時間はこれからいくらでもある。

よって、今はこれでも十分であろう。

(まず初めにせねばならぬのは……。ふむ、食材の下拵えじゃな!)

油を敷いたフライパンでベーコンをカリッとなるまで焼いていく。

粗熱を取っている間に野菜を水で洗い、挟むのに調度良い大きさに切る。

初めて"ハルのため"と挑む料理に、わらわは夢中になった。



「……うむ、うむ! 我ながらなかなか上出来ではないか」

ハルの笑顔が脳裏に浮かび、自然と上機嫌になる。

大皿に盛られたサンドウィッチを前に、誰に対してという訳ではないが胸を張った。

「これを食したハルの驚く顔が目に浮かぶぞ」

しかし、今のままでは問題がある。

これをこのまま運べば、必然的にひねくれ化け狐も同じ物を食すことになろう。

わらわにしてみれば、自分の手料理を食すのはハルだけで良いのじゃが……。

(あやつの取り分が無ければ、ハルは自分の分を躊躇いなく分け与えるじゃろう。それだけは何としても避けねばならぬ。
かと言って、素直に同じ皿を囲むというのも癪じゃ……)

1人頭を悩ませていた時、ふと今回使わなかった食材が目に入る。

それを見た瞬間、わらわに良い作戦が浮かび上がった。

「ふむ、あやつの分にはこれを入れるとしよう。
クフフフ、どのような間抜け面を晒すのか楽しみじゃ」

大皿に盛り付けていたのを変更し、普通の皿へ個別に盛り付ける。

それぞれ違う色のピックを刺して準備は完了。それを配膳用のトレーに皿を乗せ、未だ眠っているであろうハルを起こしに向かった。


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