01
「これを、こうして……。うむ、では始めるとしよう」
無人のキッチンで身なりを整え、まな板と包丁を前にする。
左の方にはボウルやザルなどの調理器具とこれから使う食材、そして右の方にはハルに頼んで買ってもらったレシピ本。
そう、わらわは今……"料理"とやらに挑もうとしている。
(あまり手の込んだ物はまだ作れぬが、これならばわらわでも作れよう)
開いて立て掛けたレシピ本のページに写るは、サンドウィッチ。
煮炊きや焼きなどの行程がほぼ無く、初心者でも作りやすいという料理。
わらわとハルの旅は始まったばかり故、料理を学ぶ時間はこれからいくらでもある。
よって、今はこれでも十分であろう。
(まず初めにせねばならぬのは……。ふむ、食材の下拵えじゃな!)
油を敷いたフライパンでベーコンをカリッとなるまで焼いていく。
粗熱を取っている間に野菜を水で洗い、挟むのに調度良い大きさに切る。
初めて"ハルのため"と挑む料理に、わらわは夢中になった。
「……うむ、うむ! 我ながらなかなか上出来ではないか」
ハルの笑顔が脳裏に浮かび、自然と上機嫌になる。
大皿に盛られたサンドウィッチを前に、誰に対してという訳ではないが胸を張った。
「これを食したハルの驚く顔が目に浮かぶぞ」
しかし、今のままでは問題がある。
これをこのまま運べば、必然的にひねくれ化け狐も同じ物を食すことになろう。
わらわにしてみれば、自分の手料理を食すのはハルだけで良いのじゃが……。
(あやつの取り分が無ければ、ハルは自分の分を躊躇いなく分け与えるじゃろう。それだけは何としても避けねばならぬ。
かと言って、素直に同じ皿を囲むというのも癪じゃ……)
1人頭を悩ませていた時、ふと今回使わなかった食材が目に入る。
それを見た瞬間、わらわに良い作戦が浮かび上がった。
「ふむ、あやつの分にはこれを入れるとしよう。
クフフフ、どのような間抜け面を晒すのか楽しみじゃ」
大皿に盛り付けていたのを変更し、普通の皿へ個別に盛り付ける。
それぞれ違う色のピックを刺して準備は完了。それを配膳用のトレーに皿を乗せ、未だ眠っているであろうハルを起こしに向かった。
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