03

(ふぅ……どうにか落ち着いてくれた……)

翠姫が啖呵を切り、紫闇はあくびを零しながらスルーを決め込む。

性格の真反対な2人だし、これからもこんな感じが続くのかと思うと少し頭が痛くなった。

「お待たせいたしました。シチューお2つとオムライスです」

目の前に3つのお皿が置かれ、"ごゆっくりどうぞ"とウェイトレスが去っていく。

ようやく落ち着いて食事ができそうだ。

「じゃあ料理も来たし、食べようか。シチューは熱いから気を付けてね、紫闇」

『これがオムライスとやらか……。して、これはどのように食べるのじゃ?』

「スプーンでこうやって掬って食べるんだよ」

自分のスプーンを手に取り、シチューを掬って手本を見せてあげる。

すると翠姫はツルを伸ばして見よう見まねでスプーンを使い始めた。

手を使わないんだ、とは言わないでおいた。

とはいえ翠姫は器用にツルでスプーンを扱い、オムライスを1口食べる。

すると大きな栗色の瞳をキラキラと輝かせて"美味じゃ!"と破顔した。

「美味しい?」

『うむ! ケチャップとやらの甘さの中に程よく効いた酸味、わらわは気に入った! それに、このとろとろした卵も良い。
初めて食したが、人間の食べ物もなかなかに興味深いぞ』

半熟の卵は美味しいよね。トロトロなら尚更。

……というか食レポ上手だな、この子。

チラリと紫闇の方を見やる。彼はシチューの入ったお皿を凝視したまま固まっていた。

「……どうかしたの、紫闇?」

『確かに腹に入れば何でも良いとは言ったがな。
何の嫌がらせだ、これは?』

ついシチューのお皿と紫闇を見比べて、あることに気付く。

紫闇の手には大きくて鋭い爪がある。お世辞にもスプーンなどの小道具を使いこなせる手とは言えない。

翠姫が簡単に使って見せたから、ポケモンって大体そういうものなんだって思ってたけど……。

そこはトレーナーの私がちゃんと考慮してあげるべきだった。

「ゴメン、オーダーする前に気付くべきだったよ。
……ほら、食べさせてあげる。空きっ腹は良くないし」

『断る。それなら皿から直接流し込む方がマシだ』

「えっ、直接って……口の中火傷しちゃうよ?」

『ゾロアークと言えば、何にでも化けられる種族なのであろう?
人間の姿に化けて食せば良いものを』

『誰が好き好んで人間なんぞに化けるか!』

ガタッ! と勢い良く立ち上がり、今度は紫闇が翠姫に啖呵を切る。

対して翠姫はツーンとした態度でオムライスを食べ進めた。

……頭痛が少し重くなった気がした。


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