01



「キミのポケモン……今話していたよね?」



突然背後から聞こえてきた声に驚いて、勢い良く後ずさりながら振り返る。

そこには緑色の髪を1つに結んだ(おそらく歳の近いであろう)青年が立っていた。

「……音もなく後ろに立たないでくれる?」

『こやつ、男ではないか。下がれハル、わらわが指1本触れさせぬぞ!』

「すまない、驚かせるつもりは無かったんだ。
ただ……キミのポケモンが気になることを言っていたものだから」

「気になることも何も……。ポケモンが人間の言葉を話せないのは知ってるでしょ」

私がそう返すと、青年はほんの少し眉尻を下げる。

その表情は何故か哀れんだような色を写していた。

「そうか……キミにも聞こえないのか、可哀想に。
ボクの名前はN。キミは?」

見ず知らずの人間に名乗る義務は無いと口を閉ざすけれど、彼の有無を言わさないような雰囲気に気圧されてしまって。

気付けば私は、自分の名前を小さく呟いていた。

「……ハル」

「ハル、と言うんだね。キミはさっきの演説を聞いて、どう思った?」

「さぁね、人間の言うことなんて興味無いよ。
ポケモンが私たち傍にいたいって思ってるんなら、それで良いんじゃないの」

「……そういうものなのかな。ボクもトレーナーだが、いつも疑問で仕方ないんだ。
ポケモンは今のままで本当に幸せなのか、って」

「……」

他人が何を以って幸福だと感じるかなんて、私には関係ないしどうでも良い。

でもそれは人間が対象であればの話で。

元いた世界でも人間の都合の良いように利用されたり、虐待を受けたり……。

挙句の果てには"懐かないから"、"手に負えなくなったから"なんて理由で捨てられる動物はいた。

そのことを思うと、ポケモンは人間と一緒にいて幸せなのかと問われれば即座に答えは出ない。

現に紫闇も翠姫も、人間に酷い目に遭わされてきた子だから尚更だった。

「それで、さっき聞こえてきた声が気になってしまって……。
ハル、今からボクとポケモンバトルをしてくれないか?
キミのポケモンの声を、もっと聞かせて欲しい」

「ポケモンバトル……?」

眉間に小さく皺が寄ったのが自分でも分かる。

私はポケモンバトルという行為に良い印象を持っていない。

戦うということは相手も自分も傷付くということだ。

ポケモンが傷付き、ボロボロになっていくようなことを……この男はやれと言うのか。

「何で私たちがそんなこ『良かろう。わらわが直々に相手をしてやろうではないか』……ちょっ、翠姫?」

翠姫が私の腕に絡めていたツルを離す。

大きな栗色の瞳をキッと吊り上げ、ツルで地面を叩いて威嚇した。

「よろしく、ツタージャ。キミのことを教えておくれ」

『勘違いするでないぞ。
わらわは貴様に欠片も興味は無いし、本来であれば男なぞ視界にも入れたくはない。
わらわとハルの楽しき昼餉の時間を縮められたくないゆえ、仕 方 な く 相手をしてやるだけよ。
光栄に思うが良い』

翠姫の目はやる気(敵意とも言う)に満ちていて。

私はこの時、初めてポケモンバトルというものを経験することになるのだった。


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