03
『しかしお前、トレーナーの基礎を何も知らないくせによく旅に出る気になったな』
「住む場所を探してるわけじゃないから。それに旅人として各地を歩き回る方が良いしね。
……トレーナーに関しては、これから覚えていくよ」
明確な目的の無い状態で始まった私たちの旅が、少しずつ色を帯びていく。
正直私は気が乗らないけど、翠姫はポケモンバトルに興味津々みたいだ。
タウンマップを開いて地図を確認する。
1番最初のポケモンジムがあるのは、サンヨウシティという名の街らしかった。
"トレーナーズスクール"の文字も見えたから、これからポケモントレーナーとして旅をしていくために必要な勉強もできるだろう。
(勉強、か……)
ポケモントレーナーとして旅をしていくなら、まずは自分のポケモンがどんな子なのかを知る必要があるかな。
「紫闇、翠姫も。話せることだけで良いから、君たちのこと聞かせてくれない?」
『んなこと知ってどうする? 身の上話はしてやっただろ』
「そんなんじゃなくて、簡単な自己紹介で良いんだよ。
好きなもののこととか、自分の種族がどんな生活してるのかとかさ」
"何でお前にわざわざそんなことを"ってボヤく紫闇とは裏腹に、翠姫が隣でピョコピョコと跳ねる。
よほど旅に出られたのが嬉しいのか、その顔はとても嬉しそうだ。
『ではハル! そこなひねくれ化け狐なぞ放っておいて、わらわの話を聞くが良い!』
「翠姫は後で聞かせてもらうから、今はちょっと待ってね。
お願い、紫闇。これから一緒にいるんだし、少しくらい自分の仲間のことは把握しておきたいんだ。
……どうしても嫌だって言うなら無理にとは言わないけど」
紫闇が大きくため息をつく。
しばらくの沈黙の後、渋々といった風に口を開いた。
『種族はゾロアーク、タイプは悪タイプ。
好きなものなんざ無い。嫌いなものは人間と甘いもの。以上だ』
「……うん、ありがとう紫闇」
『ようやくわらわの番じゃな! わらわの種族はツタージャ、タイプは草タイプ。
好きなものはハルと甘味と花、嫌いなものはもちろん男じゃ! 苦いものも好かぬ。
覚えておる技は蔓のムチ、アイアンテール、竜巻。そして……"花びらの舞"じゃ!』
『……"花びらの舞"だと?』
翠姫の発した技の名前に、紫闇がピクリと反応する。
何かすごく怪訝そうな声音だけど、どうしたんだろう?
『何でお前がそんな技を覚えてるんだ?』
『む。わらわとハルの会話に口を挟むなど無礼じゃぞ、ひねくれ化け狐!』
「お、落ち着いて翠姫。
紫闇、翠姫がその……花びらの舞? を覚えてるのがそんなに不思議?」
『いくら草タイプの技だからといって、草タイプなら誰でも覚える訳じゃない。
グラスミキサーやリーフストームならともかく、"花びらの舞"は本来ツタージャが覚えるはずのない技だ』
「そ、そうなんだ……」
そんな技を、どうして翠姫は覚えてるんだろう?
まさかそれも人間の勝手な都合で無理やり習得させられたとかじゃ……。
『そのような些事、気にするだけ無駄というもの。
葉を飛ばすよりも花びらの方が風雅で美しかろう?』
フフン、という顔で翠姫が笑う。
本人が気にしてないなら……良いか。
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