05
「着いたわよ。
この部屋にそのポケモンはいるわ。決して無理はしないでね」
「いざとなれば部屋を出ます。紫闇はここで待っててくれる?」
『あぁ。だが手短に済ませろよ』
紫闇の返事を受けて、私はドアノブに手をかける。
扉を開けた先にいたのは、緑色の体をした蛇っぽい印象のポケモンだった。
(あのポケモンは、確か"ツタージャ"……?)
ツタージャは私を見るや否や大きな瞳をキッと釣り上げ、身体からツルを伸ばして威嚇してきた。
『何者じゃ。男であるなら疾く立ち去るが良い。
さもなくば……』
意外と古風な口調の子だな……というのは、今は置いておく。
「初めましてツタージャ、私はハル。
男じゃないから安心して」
『ほぅ? ではそなたは女子か。
女子がわらわを訪ねてくるとは珍しい。何用じゃ?』
少しは警戒を解いてくれた……のかな。雰囲気が柔らかくなっている。
よし、早速だけど本題に入ろう。
「あのさ、君さえ良ければ私と一緒に旅に出ない?」
『まことか!?』
す、すごい食い付きの良さ……。
「でもその前に1つだけ言っておきたいことがあって。
私のゾロアーク……紫闇って言うんだけど、オスなんだ」
『なぬっ!?』
……固まっちゃった。
まぁ、そうだよね。
男嫌いなのに男(オス)と一緒にいないといけないっていうのは、この子の経歴を考えると精神衛生上よろしくないはず。
やっぱり断られちゃうかな……。
『男がおるのか……』
「アララギ博士から君の事情は聞いたよ。
どうしても嫌なら私も無理にとは言わな『行く』……え?」
『わらわは箱入り娘ゆえ、外の世界を見るのが夢であった。
今この機を逃せば、わらわの夢は2度と叶わぬ気がしてならぬのじゃ。
そなたさえおれば他にどれだけ男がいようと構わぬ。わらわは……そなたと共に在りたい』
ツタージャの真剣な眼差しが、私の胸を熱くさせた。
"断られるかも"って少しでも思ってしまった自分がバカみたいで。
私を選んでくれるなら……私の側にいることを望んでくれるなら、私はそれに応えたい。
「……分かった。これからよろしくね、翠姫」
『すいき……?』
「うん。君だけの、この世に1つしかない名前。
どうかな?」
『うむ、気に入ったぞ。
これから先、わらわとそなたはずっと一緒じゃ』
「もちろんだよ。
……できれば、あまり紫闇を嫌わないであげてくれると嬉しいな」
『ぬ……努力はしてみようぞ……』
翠姫の小さな手を取って握手を交わす。
そのつぶらな栗色の瞳には、確かに穏やかな光が宿っていた。
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