08
ビビヨンは泉のほとりで泣いていた。
状況が状況だっただけに出るに出られず、チラと緑炎を見ると、"どうすんだ"とでも言いた気な表情をしている。
そっとしておいた方が良いんだろうか……。
『……い』
「え……?」
ふと聞こえてきた声に首をかしげる。
ビビヨンの声……?
『羽の模様ではなく、私自身を見てください……』
「!」
か細く、弱々しい声で紡がれた言葉。
それはビビヨンの心からの願い。
いてもたってもいられず、ビビヨンのもとへ走る。
そして、その震える体を優しく抱きしめた。
『……え』
「泣かないで」
出来るだけ、ビビヨンに優しく声をかける。
「確かに私たち人間から見れば、同じ模様を持つ子はみんな同じに見えるかもしれない。
でもね、私は模様だけで判断したくない。
見た目は同じでも性格や個性はそれぞれ違うから」
『どこにでもいると……思わないのですか?
こんなありきたりで、1番個体数の多い模様を持つビビヨンなど……』
「どうして?
他のトレーナーがどう言ったとしても、君は君でしょ?
きっと、君を認めてくれるトレーナーがいるよ」
クルリと正面に回って真っ直ぐ顔を見れば、そこには涙を溜めたつぶらな目。
『本当に……本当に、そんなトレーナーが現れるでしょうか?』
『いるさ、きっとな』
「緑炎……」
気が付けば、いつの間にか緑炎が隣に立ってビビヨンを見つめていた。
とても真剣で、どこか寂しそうな表情だった。
『それにな、お前の体はお前だけのものじゃない。お前の両親がこの世に生み出してくれたんだ。
だからそんな卑屈にならずに、胸を張って堂々としてれば良いんじゃないか?
お前自身は、この世に1匹しかいないんだからな』
やけに説得力ありますな、緑炎さん。
でも、緑炎の言うとおりかも知れない。
彼女の両親が愛情を込めて育て、この世に生み出してくれたからこそ今の彼女がある。
逆を言えば、それがなければ彼女は今存在していないのだ。
望まれずに生まれてくる命などない。
だから、もっと自分に自信を持っても良いんだよ。
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