05
「私ね、お父さんとこの屋敷を出たあの日……2人でシンオウ地方に行ったんだ。
当時は自分の置かれた境遇のことなんてサッパリ分からなかったし、剛や緑炎がいなかったのは寂しかった。
でもお父さんと2人きりで出掛けるの初めてだったから、"旅行だー"なんてのんきにはしゃいでたんだよね」
そして私は、お父さんに手を引かれてある場所へ向かった。
そこはシンオウ地方の中心に位置し、南北に連なる大きな山脈。
……そう。私たち親子が最後に行った場所とは、テンガン山だったのだ。
シンオウ最大の山、その頂にあるという神殿の跡地を目指して。
「けど、何だってそんな場所に?」
「パルキアとユクシーって知ってる?
シンオウ地方では神様として伝わってる伝説のポケモンなんだけど、私たちはその2匹に会いに行ったんだよ。
……私の記憶に鍵を掛けて、異世界へ送り出すためにね」
あの世界でゲームやってた知識が、まさかここで発揮されるなんて私も予想外だったなぁ。
まぁそれはそれとして、だ。
「ここからは私の推測でしかないけど……お父さん、自分がもう時期死ぬことになるって分かってたんじゃないかなって。
だからこそユクシーとパルキアの力を借りに行ったんだと思う。
自分が死んだ後、次にフレア団の矛先が向くとしたら私しかいないから。フラダリさんから守ろうとしてくれてたんだって、今なら分かるよ」
最終兵器の場所を知っているのはお父さんと剛、そしてジョゼフだけ。
そのお父さんがいなくなったら、私はその在り処を聞き出すための手駒にされるかもしれない。
それを避けたかったんじゃないかって思う。
「名前を聞くだけでもすごそうだけど、どんなポケモンなの?」
「私もあんまり詳しくないんだけどね……。パルキアは空間を司る神様として伝わってるみたい。
空間の裂け目を自由に行き来する力を持ってて、普段はその裂け目の中からシンオウ地方を見守ってるらしいよ」
「じゃあ、ユクシーは……?」
「そういえば、以前読んだ本で見たことがありますね。
"ユクシーが世界を飛び回ったことで人々は知恵を授かった。
ユクシーの開かれた瞳を見た者は一瞬にして記憶が無くなり、帰る場所も分からなくなる"とか……」
「えっ、何それ怖……。フユカちゃん、そんな危ないポケモンに会いに行ったの?」
「まぁ、そういうことになるね。
記憶に鍵を掛けて異世界に送られた私は、行き着いた先の世界で拾われて孤児院に入ったんだ。
親の顔も思い出せないまま、その世界で10年間を過ごしてきた。その後のことは……みんなも知ってる通りだよ」
「偶然こちらの世界に戻り、緑炎と出会って旅を始めた……。そういうことだったのですね」
「うん、そう。何がきっかけで、どうやってこの世界に戻ってきたのかは私も分からないんだけどさ」
でも私が思うにきっと、緑炎との絆が私をこの世界に連れ戻したんだと思う。
例え世界が私たちを離れ離れにしようと、私と緑炎の強い絆を引き裂くことなんてできない。そういうことなんだろう。
……気恥ずかしくなるから、絶対に言わないけど。
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