04
「で、フユカちゃんの能力が遺伝だってことは分かったけど……。
何でフユカちゃんの父親が命を落とすことになったわけ?」
龍矢の口から飛び出た言葉に、剛の表情が少しだけ険しくなる。
彼のことを思えばあまり思い出したくないだろうし、申し訳ない気持ちはあるけど……。
「本当に聞くのか、シャルロット?
何せ自分の父親が死んだ時の話だ。聞いていて気持ちの良いものではなかろうに」
「……うん、何を聞いても受け入れる覚悟はできてるつもりだよ。それに私も、少しだけど思い出したことがあるんだ。
私が失踪する直前の、お父さんとの最後の記憶……。交換条件って訳じゃないけど、それを話すっていうのはどう?」
「……ハハハッ、"交換条件"と来たか。お前さんはもう、小さかったあの頃とは違うんだなぁ。
よし分かった。10年前テオに何があったのか、俺の知っていることを全て話すとするか」
剛が静かに目を閉じて小さな深呼吸を1つ。
ゆっくりと開かれたサファイアのような瞳が、強い光を宿したように見えた。
「あれは、まだシャルロットが5つくらいの頃だったか。
当時、この屋敷を頻繁に訪ねてくるようになった連中がいてな。テオに最終兵器やイベルタルのことを聞いて来おった。
その連中ってのが……後のフレア団だ」
「フレア団……姫の身柄を付け狙うあの者たちか」
「それからシャルロットが6つになってしばらく経った日の夜、ある男がこの屋敷を訪ねてきた。
それが……」
「フラダリさん……だったんだよね?」
ボンヤリとだけど、私には確かにあの夜の記憶がある。
水を飲むために食堂へ向かっていた時、書斎から話し声が聞こえていた。
不思議に思って入って行ったら、そこには真剣な顔をしたお父さんとフラダリさんがいて。
私に気付いたお父さんが、悲しそうな表情で私の名前を呟いたのを覚えている。
まるで、痛みに耐えているかのような……そんな声音だった。
「あぁ。あの後、俺はテオに頼まれてお前さんを寝かし付けに行ったからなぁ。
2人がどんな話をしていたのか、その結果がどうなったのかはまるで分からん。
ただ1つ言えるのは……あの夜の後、テオがやたらシンオウ地方の神話を調べ始めたということくらいだ」
「シンオウの神話だと……?」
突如として名前の出た別の地方に、その場にいる全員が目を見開いた。
ただでさえシンオウ地方はカロスから遠く離れた北国のはずだし、その土地の神話を調べる意味は分からないと思う。
……唯一、あの日お父さんと一緒にいた私以外は。
「そしてある時、テオとシャルロットが屋敷から忽然と姿を消した。
その数日後、テオは突然1人でここに戻ってきた。だが俺たちに留守を任せてすぐに飛び出して行ってな。
事の全てに気付いた時には……もう、遅かった。
イベルタルが飛び立った場所にいたのは、死に絶えたテオの亡骸だった……」
ヒュッと息を飲む音が聞こえた気がした。
誰が何を言わなくても、お父さんが何をしたのかは察しが付くだろう。
お父さんはあの日、イベルタルを止めようとして命を落とした。
そのイベルタルを目覚めさせたのはきっと……フラダリさんだ。
「……そっか。ありがとうね、剛。
思い出したくない話だったでしょ」
「なに、緑炎の坊主にはいつか話さなけりゃならんと思っていたからな」
「だが、何でテオさんはシンオウの神話を調……」
「緑炎」
短く彼の名前を呼んだ私の声に、全員の視線が集まるのを感じる。
そして緑炎もまた、不思議そうに金色の眼を細めた。
「ここからは私が話すよ。少しあやふやな部分はあるけど……聞いてくれる、剛?」
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