03
「自分の能力?」
剛から投げ掛けられた問いに、思わず首を傾げる。
私は占いのやり方なんて知らないし、神聖な儀式の手伝いをしてたとかそんなこともない。
人間離れした特殊能力なんて無いと思うんだけど……。
「えっ、と……どういうこと?」
「なら、聞き方を変えるか。お前さんが何故ポケモンの言葉を理解できるのか、不思議に思ったことは無いか?」
「んー……。周りの人の会話を聞いて言葉を覚えるみたいに、自然と身に付いたものだと思ってたけど……違うの?」
私の中では当たり前すぎてうっかりしてたけど、気にならないと言えば嘘になる。
擬人化している時ならともかく、原型でいる時のポケモンと言葉を交わすことができるのはどうしてなんだろう。
「テオさんからコイツの能力のことは伏せるように言われちゃいたが……。
何か知ってるのか、剛さん?」
「お前さんのその能力は、初代から血筋と一緒に受け継がれてきたものだ。
初代が神官の地位に就いた理由……それは"ポケモンの言葉を理解できる人間"だったからだ。
他の人間には持ち得ないその能力が、当時は神秘的なものとして映ったんだろうなぁ」
神官って言うから、もっと特殊な能力を持ってるのかと思ってたけど……。
他の人にしてみれば、ポケモンと話ができるっていうのも十分特殊なんだよね。
……あれ? ちょっと待って。
"受け継がれてきた"ってことは、まさか……。
「じ、じゃあ……お父さんも原型のポケモンと話ができたの?」
「そりゃあテオもレオンハルト家の人間だぞ?
自由自在に話をしていた……と言いたいところだが、実際はそうじゃなかった。
テオは"話ができる"というより、ポケモンの言葉から感情や心を読み取るレベルのものだ。
"こう言っているだろう"、"こんな感情だろう"と感じ取れる程度のものだった」
物心ついた時から剛も緑炎も擬人化できてたから、お父さんがポケモンと話をしているところを見たことが無かった。
小さい頃に"ポケモンとお喋りできることは、誰にも話しちゃダメだぞ"って言われてたけど……お父さんも同じだったんだ。
「フユカのお父さんも、ポケモンの言葉が分かる人だったんだね……」
「あぁ。姫の父君……是非1度お会いしてみたかった」
「俺もテオさんに同じ能力があるのは初耳だったな。
だが剛さん。アンタも知ってる通り、シャルロットは完全にポケモンの言葉を理解できてる。
親子で能力に差が出てるのは何でなんだ?」
「元々その能力はテオのレベルのものが本来の力だ。
だがシャルロット、お前さんは違う。お前さんの"ソレ"は初代と同じもの……つまりは先祖返りだ」
初代と同じ……ってことは、初代もポケモンと言葉で意思疎通できたってことだよね。
先祖返りってどういう意味だったっけ?
「先祖返り、って何?」
「自分の親より何代も前の先祖の特徴が色濃く現われた人のことだ。
つまりシャルロットはレオンハルト家の初代が持っていた、"ポケモンとの完全な意思疎通能力"を強く受け継いでる。そうだろ、剛さん?」
「その通りだ。民たちはその能力を神秘として敬った反面、畏れもした。
だからこそ初代はこの能力のことを誰にも話さないように、自分の子どもたちに強く言い聞かせたそうだ」
「……」
自分たちの理解を超えるものを酷く恐れる……それが"人"という生き物なのかもしれない。
ポケモンと言葉を交わすことで当時の人たちに畏敬の念を向けられていた初代は……どんな気持ちを抱いていたんだろう。
キラキラ、ユラユラと地下に差し込んでくる太陽の光。
光のカーテンのようなその揺らめきを見ながら、遠い先祖に少しだけ思いを馳せた。
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