03

宿泊部屋まで移動してシャワーを浴び、部屋で待っていたプラターヌ博士が氷水で患部を冷やしてくれた。

しばらくして部屋を訪ねてきたジョーイさんから適切に処置してもらい、今に至る。

「じゃあ、今夜は足を休めてくださいね。
骨は何ともなかったから、しばらくすれば良くなるわ」

「ありがとうございます。
ジョーイさん、悠冬……アマルルガの方はどうですか?」

「まだ目は覚めてないけど、ゆっくり休めば大丈夫よ。
アマルルガが目を覚ましたら知らせるわね」

お大事に、と言ってジョーイさんが部屋を出ていく。

蒼真は宣言通り悠冬の側にいるらしく、戻ってくる気配はなかった。

「で? 何で1人でフロストケイブまで行ったのか聞かせてもらおうか」

「ご、ごめんなさい……」

緑炎が腕を組んだまま仁王立ちする。

とっさに口からまろび出たのは謝罪の1言だ。

「まぁ落ち着きなよ緑炎。
ちゃんとこうして戻ってきたんだし、フユカちゃんにだって1人になりたい時くらいあるだろ?」

「お前は黙ってろ、龍矢。
……なら質問を変える。何で俺たちの前から逃げ出した?」

「それは……」

"逃げ出した"のワードに全員が少なからず動揺する。

もうちょっと言い方ってものが、なんて今の緑炎相手に言う勇気は無かった。

「緑炎、ここは僕が。
……フユカさん。話したくないことを無理に言う必要はないけど、1つ確認したいことがあるんだ。
君が僕たちの前から逃げるようにいなくなったのは、イベルタルの話をしたからなのかな?」

ヒュッ、と自分が息を飲む音が小さく聞こえる。

けど博士の優しい声音に緊張が和らいだのか、私は無言でコクリと頷いた。

「イベルタル……初めて聞く名前ですわ」

「イベルタルはカロス地方に伝わる伝説のポケモンでね。
文献では目覚めた時に周りから生命を奪うと言われているよ。
僕や緑炎、レオンハルト家の人たちとは少なからず因縁があるんだ」

一瞬"何で博士に因縁が?"って思ったけど、そうだった。

プラターヌ博士、テオドールさんの義弟なんだったよ。

「君はあの時、"贄の娘"と呟いていたね。何が聞こえたんだい?」

「……ぇ、が……。声が、聞こえたんです……。
……すごく低い声で」

みんなが固唾を飲んで見守っている静寂の中、私はポツポツと口を開く。

やっとの思いで絞り出す声はか細く、情けないくらい震えていた。

「己が一族の宿命を果たせ。己が使命を果たせ、って……。
でも私、それが何なのか本当に知らないんです……。
だって私は……普通の女の子のはずで……。
この世界には偶然トリップしてきちゃったから……セキタイのお屋敷のことも、最終兵器のことも何も知らないはずで……!」

声の震えが大きくなり、目頭が熱くなってくる。

ポロポロと涙が溢れてきて止まらない。

あの声を聞いた時とはまた別の意味で、とても苦しかった。

「時々シャルロットさんの記憶が流れ込んでくるの……。自分が自分じゃなくなっちゃいそうで怖い……!
水姉さんが……みんなが私にシャルロットさんを重ねて見てるんじゃないかって思ったら、私はシャルロットさんの代わりでしかないんじゃないかって……!
私……みんなと出会うべきじゃなかったのかな?
こんな苦しい思いするくらいなら、この世界に来るべきじゃ……なかったのかなぁ?」

暗闇のあの夢で、あの女性の声を聞いてから抱き続けてきた思いが言葉となって滑り落ちる。

嗚咽混じりだし、自分でも何が言いたいのか分からなくなるくらい言葉の順序がグチャグチャで。

次の瞬間、パンッ! と乾いた音が部屋に響いた。


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