05
"……ぇ、よ……"
「? ……緑炎、何か言った?」
「いや? 俺は何も言ってねぇぞ」
「そっ、か……」
「どうかしたの、フユカ?」
「何か声が聞こえた気がしたんだけど……。
ごめん、気のせいだったかも」
笑って誤魔化そうとした次の瞬間、また声が響いた。
"……に、ぇ……よ……。贄の娘よ……"
(贄の、娘……?)
聞き慣れない単語に困惑している私の意識を無視して、声は脳内に語りかけてくる。
お腹の底の方から聞こえてくるような重低音だった。
"最終兵器の番人・レオンハルト家の娘よ……。
赤き炎が我を……この世界を埋め尽くそうとしている。我の眠りが妨げられ、目覚めが早められようとしている"
「贄の娘、って……? 赤い炎って何なの……?」
「フユカさん? 大丈夫かい?」
緑炎や水姉さん、プラターヌ博士の声もどこか遠くに聞こえて。
私の意識は全て、脳内に響く声だけに集中させられてしまっていた。
"我が目覚めは近い。
贄の娘よ、己が一族の宿命を果たせ。己が使命を果たせ。
その生命を……我に捧げよ!"
「おい、フユカ!」
声が一際大きく響くのと、緑炎に肩を掴まれたのはほぼ同時だった。
「……ぁ……ぁ、……ああっ……!」
「どうしたのフユカ、大丈夫!?」
全身が総毛立つような感覚がして、言葉で言い表せないような凄まじい恐怖が私を襲う。
息ができない……。怖い……怖い……!
私は勢いのまま立ち上がり、脇目も振らずに走った。
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