04

ニコラさんに案内されたのは、荒れ果てホテルと呼ばれる場所だった。

廃墟ではあるものの、雨風を凌ぐにはうってつけな場所なんだって。

「……変わらねぇな、ここも」

「アニキが戻ってきた時にホコリまみれじゃいけねぇんで、アニキの席だけは毎日掃除してやした」

「10年以上行方知らずなヤツの席を、それも毎日かよ。……っとに、阿呆どもが」

そう言いながらも、彼の表情は満更でもない感じだった。

困惑しているような照れているような、そんな顔してる。

「んじゃ、姐さんはこっちに」

長い間使われてないとは思えないほど綺麗に保たれた椅子を、ニコラさんが勧めてくれる。

当の本人はその隣に置かれた椅子に躊躇いもなく座った。……ズボン汚れちゃうのに、良かったのかな?

「良いんですかぃ、アニキ?」

「バカ野郎、姐さんをホコリまみれの椅子に座らせられねぇだろうが」

「そ、そうっすよね! 姐さん、どうぞお座りくだせぇ!」

「あ、ありがとうございます……」

勧められるがまま、ストンと椅子に腰を下ろしたけど。

正直に言います。すごく落ち着かない……!

だってさっきのチンピラさんたちがズラッと並んで、胡座かいて座ってるんだもの!

っていうか、さっきよりも明らかに人数増えてるし!

「にしても、こんなとこで会うなんて奇遇だな。
ジム巡りの旅は順調っすか?」

「えっ!? あ、はい。
昨日クノエジムでジム戦して、6個目のバッジを貰ったところです」

私の言葉に、チンピラさんたちが色めき立つ。

"ジムバッジ6個とかマジか!"とか、"さすがアニキが認める姐さんだぜ!"とか聞こえてくる。

でもニコラさんが"調子狂うから黙ってろ"と言うと、今度は水を打ったように静かになった。

その様子を見て、私は心の中で最初の印象を撤回する。

慕われてるのは慕われてるんだけど、こう……"尊敬"よりもっと上の"心酔"の方がしっくり来る感じがした。

「ところで、ニコラさんはどうしてここに?」

「あぁ、ジャンさんの遣いでフウジョタウンまで行くんすよ。
そろそろ執事長の誕生日が来るんで、ケーキ作るためのモーモーミルクを買いにな」

誕生日パーティーかぁ……何だか楽しそう!

シャーリーと手紙のやり取りはしてるけど、それは初めて聞いた。

「それ良いですね! ジョゼフさんもきっと喜びますよ!」

「良かったら姐さんも一緒にどうっすか?
姐さんが来るって知ったら、シャーリーも喜ぶだろうし」

ほんの少しだけ……表情が凍る気がした。


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