02
フユカと水恋の足音が聞こえなくなり、キッチンには俺だけが残る。
俺はさっきのフユカの様子を思い返していた。
野菜の皮剥きを始めるまでは、アイツの様子は至って普通だった。
だが……途中から明らかに様子が変わっていた。
真剣に包丁を動かしていた時のとは違う、辛そうな……苦しげな表情を浮かべていた。
まるで……大切な何かから目を背けようとしているかのように。
(フユカは……1人で何を抱え込んでるんだ?)
俺はアイツの代わりにはなれねぇし、抱え込んでるものを肩代わりしてやれるわけでもない。
グツグツと煮込まれているポトフを睨めつけていると、キィと音を立ててドアが開く。
入ってきたのは氷雨ではなく、孝炎だった。
「何だ、我が1番乗りか。既にみな集まっているものだと思っていたが」
「今煮込み始めたところだからな、もうちっと掛かるぜ。
……孝炎、お前の眼に今のフユカはどう映ってる?」
「どうしたのだ、藪から棒に。フユカと喧嘩でもして水恋にシメられたか?」
「違うわ、何でそうなる。
さっきアイツの様子がおかしかったんだよ。上の空っつうか、何か思い詰めてるように見えちまってな」
「……」
無言でスウッと細められたその眼に不思議な光が宿る。
それと同時に、孝炎は小さくため息をついた。
「思い詰めているような、ではなく、実際思い詰めているのであろうな。
フユカにははぐらかしたのだが、あやつの側に……レティーがいるのだ」
「は?」
何でそこでレティーさんが出てくるんだ?
「ちょっと待て、何であの人がフユカんとこに……おい、まさか……?」
あまりの衝撃に動揺が隠せない。この推察がもし正しいのだとしたら……。
「気付いたか、烈。
そう、あやつは……フユカは紛れもなくシャルロット本人よ。
だがフユカが己の過去を受け入れることを恐れている故、自己の確立と我らの願いとの間で板挟みになっているのだ」
「……他の連中は、このことを知ってんのか?」
「さてな。緑炎にはそれとなく話したが、あやつは我が言う前から薄々気付いていたであろうよ。
だが、水恋たちも気付いているとは限るまい。無用な混乱を避けるためにも、今は我とそなただけの胸に秘めておくが良かろう」
「……だな。事を大きくして更にアイツを追い詰めることになったんじゃ、それこそ笑い話にもならねぇ」
妹分が思い悩んでいる時に、何も力になってやれない自分に苛立ちが募る。
だが俺たちにできるのは、フユカが自分の過去を受け入れる決意を固めるのをただ待つことだけだ。
緑炎たちならともかく、俺たちが割って入ってとやかく言うのは筋違いだろう。
これはアイツが……アイツらが乗り越えるべき問題だ。
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