01

白刃が緑炎の病室に移ってから、数日が経った。

今日も私は烈に簡単な料理を教えて貰いながらキッチンに立っていた。

今作っているのは、野菜たっぷりのポトフ。カロス地方で"家庭料理"と言えばコレなんだとか。

野菜やソーセージを切って煮込むだけと言われれば簡単そうに見えるけど、シンプルな料理なだけに味付けが重要になるらしかった。

……その前に野菜の皮を包丁で剥くのに手間取ってる訳なんだけどね。

スルスルとじゃがいもやニンジンの皮を剥いていく烈の隣で、私はどうしても途中で皮がちぎれてしまって。

しかもなまじよく切れる包丁を使ってるだけに、自分の指まで切ってしまいそうで少し怖い。

「……なぁフユカ、やっぱりピーラー出すか?」

「だ、大丈夫! 悠冬にホルビーリンゴ作るって約束したし、皮剥きくらいできるようになりたいからさ」

「そうか……まぁ、慌てずゆっくりやれ。んで、水恋は目の前で何してんだよ?」

皮剥きに必死になってて気付かなかったけど、いつの間にか水姉さんがカウンターの前に立っていて。

その手に救急箱を持ったまま、どこかソワソワと落ち着かない様子だった。

「何って、フユカがケガしたらすぐに手当するために決まってるじゃない。
料理も私が教えられたら良かったけれど……」

「おいやめろ、コイツにヤベェもん作らせる気か」

水姉さんの料理の腕は、昨日アレックスさんがこっそり話してくれたから知っている。

見た目はともかく、味がとても食べれるものでは無いって青ざめていた。

あと水姉さんが作った料理だと知らずに食べた烈が、泡を吹いて気絶したレベルだってことも。

……ごめん、水姉さん。こればっかりはフォローしてあげられないかな。

「わ、私だって練習すればできるわよ!
それにあの時の料理は、ちょっと手順を間違えだけで……」

「手順間違えたくらいで何をどうやったらあんな危険物が完成すんだよ?」

「アハハ……」

この何気ないやり取りが、私の心を軽くしてくれる。

でもそれと同時に、この暖かい空気がズシリとのしかかってきている感覚もしていた。



"お願いよシャルロット、思い出してちょうだい。
緑炎やあの人たちと一緒に過ごしてきた日々のことを……!"



(また……"あの声"だ)

あの暗闇の夢を見てからというもの、女性の声が頭の中で響くようになった。

あの時みたいに、私のことをシャルロットと呼びながら。

(違う……私は"フユカ"。シャルロットじゃない)

心の中であの声を否定する。お願いだから、もう誰も……私にシャルロットさんを重ねないで。

「フユカ? 元気が無いみたいだけど、どうかしたの?」

「うぅん、大丈夫。皮剥きに集中し過ぎちゃったのかも。
烈、次は何したら良い?」

「……お前、今日はもう休め」

「え? でも……」

「上の空で包丁握ってっと余計にケガすんぞ。
俺らもまだしばらくはこの街に滞在するんだ、また今度改めて教えてやるよ」

そう言って烈の大きな手が私の頭をポフポフと叩く。

彼は水姉さんに氷雨を呼んでくるように頼むと、1人キッチンに入っていった。


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