01
夢の中にいた。
ミアレジムでのジム戦を終えたその日の夜、私はレオンハルト邸の裏庭に立っていた。
これは夢であって、現実じゃない。
だって目の前では……幼いシャルロットさんが楽しそうに駆け回っているから。
"お嬢様、そんなに勢い良く走っては転んでしまいます!"
"転ばないように走ってるから大丈夫!"
そう言って再び走り出すシャルロットさんの後ろを、"お待ちください、お嬢様!"とクロエさんが追いかけていく。
するとお屋敷の扉から2人の人影が現れた。
前を見ずに走っていたシャルロットさんが、先頭を歩いていた男性にぶつかる。
シャルロットさんを受け止めたのは彼女の父親……テオドールさんその人だった。
"こらシャルロット、クロエを困らせたらダメじゃないか"
"こ、困らせてないよ! クロエはしんぱいしょーなの!"
"それはお前を大切に思ってくれているからだ。お前だってクロエがケガをしたら悲しいだろ?"
"……うん。クロエ、ごめんね"
"大丈夫ですよ、お嬢様。さ、そろそろおやつの時間にいたしましょう。
ジャンがお嬢様のお好きなクッキーを焼いていましたよ"
"本当!? ジャンの作るクッキー大好き!
緑炎を呼んで、お父さんも一緒に食べようよ!"
"そうだな、俺も少し休憩にするかね。ジョゼフ、緑炎を呼んできてくれるか?"
"かしこまりました"
大好きなお菓子を前に、ウキウキした足取りでシャルロットさんがテオドールさんの手を引いて歩いていく。
そんな2人の後ろを、私は無意識について歩いていた。
裏庭にある東屋で緑炎と合流した彼らは、楽しそうなティータイムを過ごす。
(私……この光景を知ってる……。
このお屋敷に住んでたわけでもないのにどうして……?)
今までシャルロットさんに関することで"懐かしい"と感じたことはあったけれど。
ここまでハッキリと、今見ている光景が自分の記憶であるかのように思うのは初めてだった。
次の瞬間、私の体がつむじ風に包まれる。その激しい旋風に思わず目を瞑った。
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