03

夕日もすっかり沈んで一番星が輝く薄暗さの中、私は必死でシャーリーさんを追い掛ける。

「シャーリーさん、待って! 待ってください!」

やっとの思いで彼女に追いつき、その手を掴む。

ゼェゼェと肩で息を切る音だけが響いた。

「……ハァ……ハァ……。部屋の戸を勝手に開けたのは、ごめんなさい。
でもあの子がケガしてたらって思ったら、じっとしてられなくて……」

「……」

シャーリーさんは黙ったまま、何も言ってくれない。

顔も背けられていて表情も窺い知れない。

「それと、昼間のこともずっと謝りたかった。
他のメイドさんが可愛いポケモンを連れてるから、シャーリーさんもそうなんだろうって無意識に決めつけてた。
だから……ごめんなさい!」

静寂が私たちを包む。

短いような長いような沈黙の後、シャーリーさんが口を開いた。

「フユカ様は……変だと思わないのですか?」

「え、何をですか?」

「私が……ガチゴラスを連れていることを……」

「私は変だと思わない。だって、どんなポケモンを好きになるかは人それぞれだから。
変わってるって思うことはあるかもしれない。
でも、だからってあなたの趣味嗜好を変だなんて言えません」

シャーリーさんがゆっくりとこっちを振り返る。

その瞳はうっすらと涙に濡れて、誰かに縋りたい気持ちを必死に押さえつけているように見えた。

「誰かに迷惑をかけてるわけじゃないんでしょう?
だったら、ガチゴラスと一緒に堂々として良いと思います。
あの子はきっと、シャーリーさんと外の世界を見たいと思っているはずです。
あなたの……シャーリーさんの本当の気持ちはどうですか?」

「私、は……」

瞳に溢れていた涙が筋を作って頬を伝う。

飽和したその想いは、言葉となって彼女の口から零れ落ちた。

「本当は……ガチゴラスを部屋から出してあげたい。
思い切り外を走らせて、他のポケモンたちとも遊ばせてあげたい。
チゴラスの頃から一緒にいてくれたあの子と、楽しい思い出をたくさん作りたい……!
だって私は……あの子が大好きだから!」

それは紛れもなく……シャーリーさんがずっと抱えていたんだろう、心からの願い。

大きな声を上げて涙を流す彼女の背中を、私はずっとさすり続けた。


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