01
テオドールさんの日記を読み耽ること数時間──。
喉が渇いた私は、何か飲み物をもらうために食堂に向かった。
蒼真も悠冬の様子が気になったみたいで、隣を並んで歩いている。
「知りたいこと、書いてあった……?」
「んー……全部読んでみないと分からないけど、少しずつ近付いてる気はするよ」
他愛のない話をしながら廊下を歩いていると、食堂の方から甘い香りが漂ってきた。
何を作っているのか気になって覗いてみる。
そこには出来たてのお菓子を満足そうに眺めている龍矢がいた。
その隣では悠冬が丸い瞳をキラキラさせている。
「良い香り〜。2人とも何作ってるの?」
「お。フユカちゃん、ちょうど良かった。
ちょーっとだけ目を閉じてくんない?」
「え、なんで?」
"良いから、良いから"って半ば押し切られる形で目を閉じる。
口元に何かを当てられ、"食べてみてよ"って言われたソレに齧り付く。
その瞬間、しっとりとした舌触りと甘酸っぱさが口の中に広がった。
「え、何これ!? すっごく美味しい!」
「そりゃ良かった。
いやぁ本当は朝のレアチーズケーキの作り方教えてもらおうと思ったんだけどさ。
悠冬と一緒に色々レシピ見てたら、マカロン作ってみたくなっちゃって」
ま、マカロンって女子力の高さNo.1のスイーツじゃん!?
私も何度か挑戦したけど、上手くいかなかくて作らなくなっちゃったんだっけ。
うわぁ、女子として自信失くしそう……。美味しいけど。
「龍矢様は手先が器用なのですね。難しい手順も問題なくこなすとは流石です」
よく見ると出来上がったマカロンは、生地の上に細かいトッピングまでしてあった。
洋菓子店に売っていても差し支えないクオリティで、食べるのが勿体なく感じるほどだ。
あ、だからさっき目を閉じさせたのかな?
「ジャンの教え方が良かったんだよ。レシピもしっかりメモしたし、ありがとうな」
「お役に立てたようで何よりです」
「ねぇねぇフユカ、僕もマカロン作ったんだよ! 食べてみて!」
悠冬の差し出したマカロンは一般的に見る形だったけど、綺麗な水色をしていた。
「わぁ、上手に作れたね。悠冬と同じ水色だ」
悠冬の差し出したマカロンを1口齧ると、爽やかな甘さが広がっていく。
どこかで食べた味だなぁ……。そうか、ブルーハワイのかき氷の味に似てるんだ。
「美味しい?」
「うん、美味しいよ。ありがとうね悠冬」
「エヘヘ! あ、これが蒼真の分で……これは龍矢の分!」
「ありがとう……」
「おっ、ありがとうな」
「それからこれがジャンの分ね!」
「おや、私も頂いて良いのですか?」
「うん! お菓子作り教えてくれたお礼!」
悠冬は私たちの分だけじゃなくて、お屋敷のみんなの分も作ったみたい。
ジャンさんにマカロンを渡すと、"僕、みんなに配ってくる!"と言って蒼真と一緒に食堂から出ていった。
「そういえば、さっき龍矢がくれたマカロンは何味だったの?」
「そうだなー、"俺の愛情の味"かな?」
突然至近距離まで近付いた龍矢の顔に、驚いてビャッと後ずさる。
龍矢は"冗談だって。イチゴ味だよ"ってイタズラっぽく笑っていた。
[*prev] [next#]
TOP