06

「(こんな時に限って……! 野生のポケモンだったら最悪だ)
だ、誰かいるの?」

森の茂みを掻き分けて出てきたのは、紫の髪と金色の瞳を持った男の人だった。

「あれ、こんなところに人がいるなんて珍しいな。迷子にでもなった?」

良かった、ポケモンじゃなくて人だった! 牧場への道を知ってるかも。

「あ、あの私たちメェール牧場に戻りたいんです。
道を知ってたら教えてくれませんか?」

「それは良いけど……」

男の人はグッと距離を縮めると、私の腕を掴んだ。

「君、ケガしてるじゃん。ダメだよ、女の子が傷痕残しちゃ。
手当してあげるから、こっちに来な」

「えっ、わっ!?」

男の人に腕を引かれて近くの川に出る。

彼はハンカチを取り出すと水で絞って腕に巻いてくれた。

「ほい、応急処置終わり。後でちゃんと消毒しときなよ」

「あ、ありがとうございます……」

熱を持っていた患部に触れるハンカチがひんやりとして気持ち良い。

ちゃんと洗って返さないとな。

「で、どうしてあんなところにいたんだ? 何かワケありみたいだけど」

男の人に事情をザックリ話すと、彼は"なるほどね"と呟いた。

「じゃあ君はカロスを巡る旅人ってことか。俺と同じだ」

「え、あなたも?」

「そ。俺ってば"愛多き男"だからねぇ。
君みたいな可愛い子と話せるのは大歓迎さ」

「は、はぁ……」

何ていうか、読めない人だなぁ。飄々としてる感じ。

「早速だけど……。俺、君の名前が聞きたいなぁ」

「あ、はい! フユカっていいます。
あなたの名前は……えっと?」

「何だと思う?」

イタズラっぽい顔でそう聞かれても困る。初対面だし。

「ハハッ、そんな真剣に考えなくて良いよ。
実のところ俺さ、君が思うような名前は持ってないんだよね。
東の地方だと……何て言ったっけ?」

「"名無しの権兵衛"、ですか?」

「それそれ、"ナナシノゴンベ"。だから俺のことは君の好きなように呼んで良いよ」

「じ、じゃあ……龍矢さん」

何となくだけど、彼をポケモンに例えるならドラゴンタイプのような気がした。

ガブリアスやボーマンダのような雄々しい感じじゃなくて、ヌメルゴンとかカイリューみたいなイメージ。

「龍矢、か。良いね、気に入った!
さて、そろそろ牧場に向かうとしますか。エスコートするよ、フユカちゃん?」

小さくウインクして歩き出した龍矢さんの背中を追い掛けて、森の中を進んで行った。


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