05
「そっか……。ちょっと、その女の子が羨ましいな」
「フユカ?」
「だって、緑炎は10年もその女の子を探し続けてるんでしょ?
自分のことをそれだけ大切に思ってくれる人がいるって、愛されてる証拠だと思うから」
「フユカは違うの?」
白刃が大慌てで悠冬を窘めたけど、私はそれを笑って制した。
この際だし、私のこともみんなに聞いてもらうつもりでいたから。
話の前提として、私がカロス地方とは違う世界から来たことを話した。
「私ね、親の顔を知らないんだ。物心ついた時から、ずっと孤児院で育ってきたんだよね」
「孤児院……?」
「親のいない子どもたちが暮らす場所だよ」
私には、7歳になる以前の記憶が無い。
どんな家庭に生まれたのかも、生みの親がどんな人だったのかも。
何もかも知らないまま孤児院に預けられて育った。
「だからさ、帰りを待ってくれる人がいて帰る場所がある。
それって当たり前のようで、とても幸せなことだと思うんだ」
「そのような過去をお持ちだったとは。あぁ姫、何とおいたわしい……」
「私はそんな深刻に考えなかったよ。
この性格が幸いして孤立することは無かったし、小さな学校も兼ねてる孤児院だったから勉強にも困らなかったしね」
親の顔を思い出せない子は他にもいたし、"知らない"って子も少なからずいた。
"親に捨てられた"って怒りも、"親が死んだ"って悲しみも持ち合わせていなくて。
だから孤児院にいた時も、似た境遇の友だちに囲まれて楽しく過ごしていた。
「自分の親がどんな人なのか、気にならないって言ったら嘘になるけどね。
でも、私は今の現状に満足してるんだ」
「……フユカ」
「ん? どしたの、蒼真?」
右隣に座っていた蒼真が私の服の袖をキュッと掴んでいる。
彼は私の目を真っ直ぐ見つめて、"……いなくならないで"ってポツリと呟いた。
驚いて思わず目を見開いちゃったけど、ニャスパーはエスパータイプ。人の心の機微には敏いはずだ。
私が元の世界の話をしたから、"いつかは元の世界に帰ってしまう"って思っちゃったのかな?
「大丈夫だよ蒼真、今の私はみんなと一緒にいるのが楽しいんだから。
最初は元の世界を恋しくも思ったけど、今となってはこのままこの世界にいても良いって思ってるくらいだし」
「……本当?」
「ホント、ホント」
そう言いながら頭を撫でてやると、安心したように目を細めて大人しく撫でられていた。
「あーっ、蒼真だけズルい! フユカ、僕もナデナデして!」
左隣に座っていた悠冬がグリグリと頭を擦り付けてくる。
同じように撫でてやると"エヘヘ♪"って嬉しそうに笑った。2人とも天使か。
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