06
フラダリさんの姿が完全に見えなくなった途端、水姉さんが私を振り返る。
あまりの勢いに声をあげそうになったのは、不可抗力ということで許して欲しい。
「フユカ、大丈夫!? 何もされてないわよね!?」
「だ、大丈夫だよ。フラダリさんは、むしろ私を助けてくれた方だし……」
「何もされてないなら良いけど……。
あの男といるのを見た時、心臓が凍るかと思ったのよ?」
そう言って水姉さんは優しく頭を撫でてくれた。
その手がとても暖かくて、ざわついた心を落ち着かせてくれた。
遠い昔にもこんな風に頭を撫でてくれたような気さえして。
「……ねぇ、1つだけ教えて。
どうして水姉さんは、私に惜しげも無く優しくしてくれるの?」
初めて会った時から、水姉さんは私にとても優しくしてくれた。
本当のお姉さんみたいに、海のような心の広さで。
でもそれが何故なのか分からなくて、つい口を突いて出てしまった。
水姉さんは少し悲しそうに笑って、"そんなの決まっているわ"と言った。
「あなたのことが大切だからよ。初めて会った時からずっとね」
「え……。それってどういう……?」
私の言葉は続かなかった。いや、続けられなかった。
いつの間にか私は暖かな腕の中にいて。
一拍遅れて、私は水姉さんに抱き締められていることに気付く。
「水姉さん……?」
「フユカ、お願い。
あなたは私たちの前からいなくならないでちょうだい。
あんな思いは……もう2度としたくないの」
それがどういう意味なのか、本当は聞きたかった。
でも私を優しく抱き締めるその腕が微かに震えていて、とても聞き出す気にはなれなかった。
「大丈夫だよ、水姉さん。私は今この世界に、確かに生きてる。
みんなに黙って消えるなんてしないよ」
そう言って宥めるように背中をポンポンと叩くと、水姉さんは"約束よ"と小さく呟いた。
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