05

私の前にオスのカエンジシが現れた。

カエンジシはフレア団の2人をジッと見つめている。

「カエンジシ!? ……仕方ありませんが、今日は諦めましょう」

「ですがボスの目的のため、あなたにはいつか必ずアジトへ来てもらいますよ」

フレア団はそう言い残して去っていった。

思わずカエンジシをチラリと見やる。

「(助けてくれた……んだよね?)
……あの、ありがとう」

『いえ、怪我が無いのであれば何よりです』



「どうやら間に合ったようだな」



カエンジシとはまた違う、聞き覚えのある声に思わず振り向く。

そこにはこちらに向かって歩いてくるフラダリさんの姿があった。

「フラダリさん……」

「大丈夫かね、フユカさん?」

「は、はい……。ありがとうございます」

フラダリさんは下っ端たちが逃げていった方向を一瞥すると、小さくため息を零した。

「まったく、か弱いマドモアゼルを力尽くで誘拐しようとするとは……。
次からは1人で出歩かない方が良い。
君の身に何かあれば、プラターヌ博士も心配するだろうからね」

「す、すみませんでした……」

彼の声色は私を窘めながらも、どこか安心したようなものに聞こえた。

それが私を心配してのものだったのかは、分からないけど。

「しかし、良いところで会えたものだ。
君には旅の話を色々と聞きたいと思っていたんだよ。
この近くのカフェで、コーヒーでもご馳走しよう」

フラダリさんってコーヒーに詳しいのかな?

高級品のコーヒーをブラックで飲んでそうなイメージはあるよね。

でも、そろそろ戻らないと雅たちが心配してるだろうな。

「お気持ちだけいただきます。仲間を待たせてるので……」



「フユカ!」



またの機会に、と返そうとした私の声に被さるように、私を呼ぶ誰かの声が響いた。

切羽詰まっているような声音に驚いて振り向くと、水姉さんがすごい形相で走って来ていた。

(あぁ、やっぱり心配させちゃってたんだな……)

と思ったのも束の間。

水姉さんは私たちの間に割って入ると、フラダリさんを思い切り睨み付けた。

「この子に近寄らないでちょうだい!」

「え……」

こんなに怒っている水姉さんを、私は初めて見た。

何だかいつもの彼女と別人のように思えて、何も言えなくなってしまう。

「いやはや、随分な嫌われようだ」

「当たり前でしょう!?
10年前、あなたは私たちから大切な人を奪ったのよ。
忘れたとは言わせないわ!」



10年前? 大切な人を奪った?



水姉さんの言葉の真意は分からない。ただ1つ分かるのは、フラダリさんのことをよく思ってないことだけだ。

"敵視している"と言った方が正しいのかもしれない。

「……2人で落ち着いて話すことはできないようだな。
残念だが、私はこれで失礼させてもらうよ」

フラダリさんは表情を変えることなくそう言い残し、カエンジシをボールに戻して来た道を戻って行った。


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