06


目が覚めたとき、私は知らない場所で寝ていた。

体の傷は消え、痛みもない。

おそらく、昨日のトレーナーが連れてきてくれたのだろう。

あのトレーナーは今もここにいるのだろうか?

彼女に礼が言いたかった。

私にとって、彼女は私を忌み嫌わなかった唯一の存在だから。

私の力を見ても、"化け物"と言わなかったから。

たったそれだけのことが、とても嬉しく思える。

こんな気持ちは味わったことがなかった。

あの洞窟では、他のポケモンに会うたびに敵視の視線を向けられたり、攻撃されたり、"化け物"と罵倒されるのが当たり前だった。

人間であろうとポケモンであろうと手を差し伸べるという彼女に惹かれた。

そして、叶うならば……彼女を傍でずっと守りたいと思った。

会いに行こう、彼女のもとへ――




「ねぇレイナ〜、早く朝ご飯食べに行こうよ〜。
僕お腹すいちゃった」

「分かった、分かった。あと髪を梳くだけだからもうちょっと待って」

今日は再びハクタイシティ経由でトバリシティへ行くため、少し早めに起きた。

というか、いつもより早くに起きられたのが自分でも奇跡だと思う。

髪を櫛で梳き、荷物の準備が出来ているかを確認して食堂へ向かった。

いつものように各々が好きなものを食べていると、隣のテーブルで食事をしていた2人の女性が何かを話していた。

「ねぇ、あの男の人カッコイイよね」

「え、どの人?」

「ほら、サラダが乗ったトレーを持ってる人」

「本当だ、カッコイイ! 彼女とかいるのかな?」

ポケモンの世界に来てまで、彼氏がどうだの彼女がどうだのって話を聞くことになるとは思わなかったよ。

どうせ私は"彼氏いない歴=年齢"だよ。

聞いてないって?

んなこと気にすんな。

「すまない。隣に座らせてもらっても良いだろうか?」

ふと声をかけられたので顔を上げると、そこには1人の男性。

しかもその手にはサラダの乗ったトレーがあった。

「え? あ、どうぞ……」

「ありがとう」

突然の出来事に、私の頭の上でアチャモが回り始める。

気を紛らわすために食事を再開したが、目の前の男性は一向に食事を始めず私の顔をじっと見ていた。

その視線が気になって声をかけようとしたとき、男性が口を開いた。

「昨日は助かった。礼を言う」

「昨日……?」

「忘れたのか? 迷いの洞窟で会っているはずなんだが」

あれ……この人の声、聞き覚えがある……?

それに、迷いの洞窟で会ってるって……。



「もしかして……フカマル君?」

「あぁ、そうだ」




驚きの連続でもはや自分が何を言っているのか分からなくなりそうだ。

それにしても、フカマル君がこんなにイケメンだったなんて。

「あ、あれは……本当に放っとけなかっただけで……。
というか、続きは別の場所で聞くから早く食べちゃおう」

だって他の女の人の視線が痛いし……。

それから私たちは始終無言で食事を済ませたのだった。


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