04
「か、完全に見失った……」
洞窟が暗いせいか、ズバットたちを完全に見失ってしまった。
懐中電灯持ってきておいたら良かったな。
『あ。ねぇ、レイナ。あそこに使えそうな木の棒があるよ』
焔が指差す先を見れば、松明に使えそうな太い木の棒が転がっていた。
「本当だ。焔、火をつけて松明にするから1度出てくれる?」
『うん、分かった』
焔のお尻の炎を拝借して木の棒に火を灯す。
これでしばらくは真っ暗闇の中を進まなくて済みそうだ。
『?』
『來夢、どうかした?』
『何か聞こえた気がしたんだけど……。気のせいかな?』
『いや、僕にも聞こえる。怒鳴りあってるみたいだから、ケンカかな?』
焔に声の聞こえる方向を探してもらいながら進むと、さっきのズバットの群れがいた。
ポケモンが囲まれてるみたいだけど、ここからじゃ暗くてよく見えない。
『お前が仲間を呼んだんだろ!』
『本当のことを言え!』
『……私に仲間などいない』
ズバットたちの怒声に反論したのは、とても弱弱しい声。
声の主が気になって松明を動かしてみる。
その正体は1匹のフカマルだった。
しかもズバットたちによる攻撃のせいなのか、体中はキズだらけだ。
「酷い……。
大勢で寄ってたかって攻撃するなんて」
私たちの存在に気付きもせず、ズバットたちはフカマルを攻撃する。
『ここの雰囲気は変わってしまった。
今まで楽しく暮らしてたのに……お前が来てからというもの、みんな怯えながら生活するようになったんだ!』
『全部……全部お前のせいだ! 今すぐにこの洞窟から出ていけ、"化け物"!』
ズバットたちの罵倒の声に、フカマルは顔をしかめた。
その表情はとても悲しそうで、でも心のどこかで諦めているように見えた。
「ちょっと待った!」
ズバットとフカマルの視線が一斉に私へと向けられる。
『お前は……?』
私の身の上話は後だよ、フカマル君。
『さっきの人間だ……』
『こいつの仲間だ……』
「まず訂正させてもらうけどね、私はフカマルの仲間じゃない。
それよりさ、1匹を集団で襲うなんてちょっと理不尽だと思うんだけど」
『うるさい! 部外者が口出しするな!』
ズバットたちは相当いきり立っているようだ。
『何故……』
フカマルがポツリと呟く。
『何故お前は私を庇う? 同じ場所に住むポケモンたちにさえ忌み嫌われるのに。
どうしてお前は……?』
「確かに私は部外者だよ。君たちからしたら、他所者だよ。
だけど私は困ってたり、いじめられたりしてるのを見ると放っとけないんだ。
人間であれ、ポケモンであれ……同じ"生き物"に変わりはないんだから」
『……っ!』
人間とポケモン……。
姿かたちは違っても、同じ生き物。
みんなが助け合って生きていくべきだと、私は思う。
『簡単に言えばお人好しってことだよね、それ』
「一気に雰囲気をクラッシュしてくれたね、笑理!?」
間違ってはないけど!
『そいつの味方をする以上は俺たちの敵だ!』
『みんな、行くぞ!』
ズバットたちが一斉にエアカッターを発射する。
その標的は――
「私かい!」
これから自分を襲うであろう衝撃を前に、反射的に目を閉じる。
しかし、いつまで経っても衝撃は来なかった。
不思議に思って目を開けると、私の前にフカマルが立っている。
そして次の瞬間、1匹のズバットが目にも止まらぬ速さで吹っ飛ばされていった。
「え!?」
いきなりのことに唖然としてしまう。
そこ、マヌケ面とか言わない。
呆気に取られている間にも、フカマルは次から次へとズバットを吹っ飛ばしていく。
あの小さな体のどこにそんな力があんの?
フカマルとは思えないほどの素早さと力の強さだった。
そんな理解の範囲を超えた力をズバットたちは恐れ、忌み嫌っていたのだ。
自分たちを傷付ける、という一方的な思い込みで……。
ふと、焔に名前を呼ばれて正気を取り戻す。
見回せばズバットたちはどこかへと消えており、地面に突っ伏しているフカマルの姿が目に入った。
私はフカマルを抱えて、迷いの洞窟の出口へと走った。
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