02
「よし、今度は迷わずに来れた! みんな、準備は良い?」
ソノオの花畑から発電所にUターン。
そして目の前には、これから戦場と化すであろう発電所のドア。
『もちろん! 今度こそ絶対に追い払ってやるんだから!』
『僕も行く!』
『ちょっと怖いけど……レイナが行くなら私も行く!』
よし、みんな気合充分!
鍵を回して……。
オープン・ザ・ドア!
「失っ礼しまーす!」
「何!? お前、鍵を持っているのかよ?
それでは鍵を閉めた意味がない、つまり俺の負けじゃないか……。
はっ、落ち込んでる暇はないよ! 幹部様に連絡だ!」
あ、やっぱり幹部クラスの人いたんだ……。
パチリスが言うには、幹部は"怒ってばっかりのおばさん"と"変なおじいちゃん"らしい。
友達が持ってたゲームにおじいちゃんの幹部なんていたっけ?
まぁ、良いや。
ここまで来たからには絶対に追い払って、女の子の父親も助ける!
「みんな、行くよ!」
奥に進むたびに下っ端たちが勝負を仕掛けてきたけど、正直言って面倒臭いので適当にあしらった。
だって、頭さえ叩けば万事解決でしょ!
発電所の中を歩き回ること数分……。
何やら大きな機械が置かれた部屋にいたのは2人の男性と1人の女性。
おそらく、若い男性の方が女の子の父親だろう。
ドアを開けて中に入ると、その場にいた全員の視線が私に集中した。
「随分堂々とした潜入するのね、あなた。でもそういうの嫌いじゃないわ。
あたし、ギンガ団3人の幹部……じゃなかった。4人いる幹部の1人、その名もマーズ!
今よりも素敵な世界を作り出すためいろいろ頑張ってるのに、なかなか理解されないのよね」
「今よりも素敵な世界なんて作って何をするの? 今の世界も充分素敵だと思うけど?」
「ほらね、あなたも分かってくれないでしょ? ちょっと悲しいけどね……。
だから、ポケモン勝負でどうするか決めましょ!
あたしが勝ったらあなたが出ていく。その代わり、あなたが勝ったらあたしたちギンガ団が消えるわ!」
つまりこの女性……マーズに勝てばギンガ団を追っ払えるし、女の子の父親も助かるわけだ。
良いよ。その勝負、乗ってやろうじゃん!
「分かった。その言葉、忘れないでよ」
「まぁ、あなたみたいな子どもに負けるつもりはないけどね。
行くわよ、ブニャット!」
「來夢、レッツゴー!」
相手はブニャットか……。
こうして見ると眼光が鋭く見える。
來夢が怯えなきゃ良いけど。
「ふーん。珍しいポケモンを連れてるのね。
ブニャット、引っ掻くで痛めつけてあげなさい!」
ブニャットがに向かって猛突進してくる。
しかもすごい形相で。
『あたしの爪の錆にしてやるわ!』
あのブニャット……速い!
あの体でどうやったらあんなスピードが出せるわけ!?
「來夢、サイコキネシス!」
何とか直前で動きを封じることに成功。
あぁ、危なかった。
「そのまま床に叩きつけて!」
『う、うん!』
來夢はブニャットを思い切り床に叩きつけた。
自分で指示しておいてなんだけど……あれは痛そう。
『ちょっと、痛いじゃないのさ!』
「ブニャット、猫だまし!」
マズい! 猫だましをくらったら怯んじゃう!
「來夢、かわして!」
「もう遅いわ!」
猫だましがヒットしてしまい、來夢はすっかり怯んでしまった。
「戻って!」
とりあえず來夢をボールに戻す。
どうしよう……。
(最近分かったことだけど)來夢は一旦怯んでしまったら、しばらく攻撃できない。
かと言って、焔はまだ格闘タイプの技を覚えていない。
「もう終わり? 威勢が良い割に大したことないのね」
どうすれば良い……?
『もう許さない! 素早さならあたしだって負けないんだから!』
「!?」
いつの間にかパチリスが肩から飛び降り、頬袋から電気を発している。
『次はおチビちゃんが相手? あまりガッカリさせないで欲しいわねぇ』
『そんなこと言ってられるのも今のうち! トレーナーさん、早く指示を出して!』
いきなり"指示を出せ"と言われても、私のポケモンではないのだから出せるわけがない。
えっと……図鑑、図鑑っと。
「よし! パチリス、天使のキッス!」
「かわして引っ掻く攻撃!」
天使のキッスは難なくかわされてしまったけど、あのスピードと体重を利用すれば……!
「今だ! 草結び!」
『ふぎゃっ!』
人間よりも猫の方が動体視力は優れている。
でも、早く動けば動くほど動体視力が低下するのは人間と同じなはず!
「なかなか面白い技を使うのね。
だけど、これで終わりにしてあげる! ブニャット、騙し討ちよ!」
……これ、來夢を引っ込めて良かったかも。
「私たちだって絶対に負けない! もう1度草結び!」
草結びにより、再びブニャットが勢い良く転倒する。
次で……フィニッシュだ!
「とどめのアイアンテール!」
パチリスの尻尾がブニャットの脳天に直撃し、ブニャットは目を回して倒れていた。
「あーらら、負けちゃった!
まっ、いっか! あなたとのポケモン勝負、割と楽しかったし」
「おやおや、子どもに負けるとはの」
声の聞こえる方に視線を向けると、謎の老人が私を見ていた。
その目つきは、まるで商品の品定めをしているかのようだ。
えっと……誰ですか?
マーズはその老人を苦々しげに見ている。
「まあ良いさ、電気はたっぷり頂いた。これだけあれば相当すごいことができるはず。
さあさマーズや、ここは引き上げるとしよう」
「うるさいわね!
あたしに命令して良いのはこの世界でボスただ1人なの!
黙ってなさいよ、あなたは! 最近仲間になったくせに偉そうにしないでよね!」
同じ幹部だろうに、どんだけ仲が悪いんですか。
「じゃ、あたしたちはひとまずバイバイしちゃうから!」
……勝ったんだ。
さっきまで緊迫する空気の中に身を置いていたせいか、一気に体から力が抜ける。
隣に誰か来たような気がして目をやると、少女の父親であろう男性が立っていた。
「ギンガ団……。
とにかくポケモンやエネルギーを集めて宇宙を作り出すと言っていて、まるっきり意味不明でした」
でしょうね。私にも意味不明です……。
「それはともかく、君には感謝の気持ちでいっぱいだ! やっと娘に会える!」
「いや、私は……」
「パパー!」
私は当然のことをしただけだ、と言おうとした声は少女の声にかき消された。
「あっ、臭い! シャワーしなさい!」
……まさかの"お父さん、臭い"発言!?
娘を持つ父親なら避けて通れない道だと言うけど、年端もいかない子どもに言われるのはさぞショックだろう。
「いやー、あっはっはー。無理矢理働かされてたからね」
……全く効いていない……だと!?
何故かその場にいるのがはばかられ、私たちは発電所を出た。
すると、目の前に何やら怪しげな男がいる。
「あの、こんな所で何をしてるんです?」
「……何故私が国際警察の人間だと分かってしまったのだ!?」
逆に聞きたい。警察だったんですか……!?
「いや、普通に話しかけただけなんですけど」
「……へっ? 普通に話しかけただけ?
いーや、私を只者ではないと見抜いて話しかけたのだろう?
その眼力恐るべし……!」
人の話を聞かないの、この人は!?
何か面倒な人に話しかけてしまったような気がする。
「正体がバレたんだ、自己紹介をさせていただこう」
いや、あなたが自分でバラしたんですよね?
「私は世界をまたにかける国際警察のメンバーである。
名前は……いや、君にはコードネームを教えよう。
そう、コードネームは”ハンサム”! 皆そう呼んでいるよ。
ところで君、この発電所にギンガ団という怪しい連中がいると聞いて飛んできたのだが、何か知らないか?」
どうやらこの怪しい男……じゃない、国際警察のハンサムさんはギンガ団の目撃情報を受け、この発電所に来たようだ。
「ギンガ団なら、さっき追い払いましたけど……」
「君が追い払っただと? トレーナーとはいえ、まさか……?
よし、中を見てくる!」
……初対面の相手の話を簡単に信じてくれるとは思ってなかったけどさ、少しは信じてくれても良いんじゃないかな。
やがて、ハンサムさんが興奮した様子で発電所から出てきた。
「すごい、すごいな! 君の言ったことは本当だった!
素晴らしい。まだ若くても1人前のトレーナーなんだな。
よし、私は逃げた連中を追いかけよう!
何でも、ハクタイにギンガ団のアジトがあるらしいのでな! では!」
そう言うと、ハンサムさんは駆け足で去っていった。
『何か……慌ただしい人だったね』
「うん。
でも、ハンサムさんとはこの先も会うような気がするなぁ」
『いつものカン?』
「そんなとこだね。
まぁ、"ギンガ団の野望を止める"っていう点では一致してるわけだから、敵対することは無いだろうけど」
『じゃあ、ハクタイのアジトにも行くの?』
「できればギンガ団とは関わりたくないけど、もう関わっちゃったしなぁ。
こうなったら、とことん邪魔してやろうじゃん! ギンガ団の野望が完全に潰れるまで!
さてと……とりあえず発電所にいたギンガ団は追い払ったことだし、ミックスオレで乾杯しようか!」
『『『賛成〜!』』』
あ、その前に自販機探さなくちゃ。
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