02

「フム……。それで君が気が付いた時にはここにいたと……」

「はい……。信じられないですよね」

話を聞いてしばらく口を開かなかったナナカマド博士だったが、やがてゆっくりと顔をあげて口を開いた。

「いや、信じよう。君が嘘をついているようには見えない。
それに君がシンオウ地方に来たのも私たちに会ったのも、何かの縁なのかもしれん」

自分自身でも信じられないような話を信じてくれたナナカマド博士を見て、安堵の息を零す。

「ところで、君はこれからどうするか考えているのか?」

重ねて質問されて私は悩んだ。

シンオウ地方に来て來夢に会ったは良いが、これからのことを全く考えていなかったのだ。

「それが、まだ決めてなくて……」

「君はポケモンが好きかね?」

「はい、大好きです!」

ポケモンが好きだと答えた私に、ナナカマド博士はジムを巡ることを勧めてくれた。

もちろん承諾し、旅の準備を始めるためにナナカマド研究所へ向けて出発した時だった。



「待てぃ!!」



いきなり大声を出したナナカマド博士にビックリしながらその先を見ると、金髪の少年と白い帽子をかぶった少女が草むらへ入っていくところだった。

しかもその2人のベルトには、モンスターボールが1つも装着されていない。

少年と少女はこっちを見て、なぜナナカマド博士がここにいるのか、と言いたそうな顔をしている。



「……彼らはポケモンが欲しくて草むらに入ろうとしたのか。
ポケモンと出会うことで彼らの世界は変わるだろう。私がそのきっかけを与えて良いのか?」

1人でブツブツと呟いていたナナカマド博士だったけど、2人に試すような視線を向けて私の時と同じ質問を投げかけた。

「君達、本当にポケモンが好きなんだな?」

「はい、大好きです!」

「俺もポケモン大好きだぜ! 
何回聞かれたって何回でも答えるよ! ポケモンが大好きだって!」

「……ポケモンも持たずに草むらに入ろうなどと危ないことをする人間がポケモンを持ったら、何をしでかすか心配だがな」

ナナカマド博士の容赦ない言葉に、金髪の少年はうっ、と言葉を詰まらせる。

「じゃあ俺は良いからさ、ヒカリにはポケモンをあげてくれよ! 草むらに入ろうとしたのは俺だからさ……」

「ジュン……!」

どうやら少年はジュン、少女はヒカリという名前みたい。

「!! 生意気を……。
なるほど、分かった。ポケモンは君たちに託そう!
こちらこそ君達を試すような真似をして悪かった」

「え!? 大切なポケモンなのにあげると言うんですか!?」

「うむ! 私たちはポケモンとともに生きている。
人にはそれぞれポケモンと出会う時がある。ともに歩むべき世界がある。
彼らにとって今日がその時! ここがその場所なのだ!」

ポケモンがもらえると分かった2人は満面の笑みを浮かべながらナナカマド博士に礼を言った。

「ただし、もう2度と無茶をしないと約束してもらうぞ! さぁ、好きなポケモンを選べ!」

博士が開けたカバンの中にモンスターボールが3つ入っている。

2人はこれからこの中の1匹を選んで、私と同じように旅に出るのだ。

しばらくしてヒカリちゃんはポッチャマ、ジュン君はナエトルを選んだ。

「なるほど、2人とも良いポケモンを選んだようだな。
良いか、君達に託したポケモンはまだ外の世界を知らない。そういう意味では君達と似ているかもな」

その時、カバンの中に残っていたモンスターボールから寂しそうな声が聞こえた。



『僕は旅に出られないの?』



残りのモンスターボール……それはヒコザルが入っているモンスターボールだった。

(そっか、この子はトレーナーと旅に出られなくて寂しいんだ……)

「レイナ君、どうかしたのかね?」

ヒコザルのモンスターボールをじっと見つめていた私を不思議に思ったのだろう。

その場にいる全員の視線が私に向けられていた。

「いえ……。なんか、ヒコザルが寂しそうだなって思って」

モンスターボールを手に取って眺める。するとボールが開き、私の肩の上にヒコザルが飛び乗った。

『トレーナーと旅に出るの、楽しみにしてたのになぁ……』

「今回は残念だったね。
でも大丈夫。いつかきっと、君をパートナーに選んでくれるトレーナーと会えるよ。
旅に出るのはそれまでの楽しみに取っておこうね」

『うん……』

本当に楽しみにしていたんだろうな。

「では、このヒコザルは君が連れて行きなさい」

「え」

驚いてナナカマド博士を見やる。その表情をうかがい知ることは出来ないけれど、どこか穏やかな気がした。

「でも……」

「なに、構わないとも。君とヒコザルの間に何かを感じたのだ。
君たちの縁は、今この時に結ばれる運命だったのかもしれん」

『僕、旅に出ても良いの?』

期待に目をキラキラと輝かせたヒコザルを見て嫌と言えず、ヒコザルは私が連れて行くことになった。

本当に嬉しそうに笑顔を咲かせたヒコザルに、ジュン君とヒカリちゃんは"良かったね"と笑った。

「では、何か困ったことがあればマサゴタウンにある私の研究所に来ると良い。
コウキ、レイナ君、行くぞ」

「博士ー! 待ってくださいよー!」

コウキ君と私は慌ててナナカマド博士を追いかけた。


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