06
ナオトが皮を剥いてくれたリンゴを食べながら、2人で話をする。
ちなみにこのリンゴは、トウガンさんに見舞いの品として貰ったフルーツ盛り合わせに入ってた物。
案の定ナオトは包丁の使い方が危なっかしかったので、途中でピーラーに変えた。
最初は彼が食べさせてくれようとしてたんだけど、さすがに恥ずかしいからやんわり断った。
怪我したのが利き手側じゃなくて良かったよ。
「あのさ、ナオト。ちょっと変なこと聞いても良い?」
「何だい?」
「ナオトはさ、"空間の神子"としての記憶ってどのくらいあるの?」
ピタッ、とナオトの手が止まる。
ほんの少しだけ目を見開いたかと思ったら、瞬きをした次の瞬間には困ったように笑った。
「……どうだろう。僕自身、自分が神子だという確信がある訳ではないから。
でも、どうしてそんなことを?」
「気を失ってる間にね、夢みたいなものを見たんだ。
アゲハントがたくさん飛んでる花畑で、ナオトにそっくりな騎士が女性の騎士にプロポーズしてるとこ」
ユクシーもエムリットも、"2人の神子は同じ姿のまま転生を繰り返す"って言ってた。
それならあの女性の騎士が私の前世の姿で、男性の騎士はナオトの前世の姿ってことだよね。
エムリットが言ってた、"いつの時代も必ず惹かれ合う"ってこと……ナオトは知らないんだろうな。
「同じ神子だったら、私の知らないことを知ってるかもって。
ごめんね、変なこと聞いて」
「いや、大丈夫だよ。僕も神子について何か分かれば連絡するよ。
さぁ、明日からリハビリが始まる。今日はもう眠ると良い」
「そうだね。……ねぇナオト、手を握ってもらっても良いかな?
何だか、とても安心するんだ」
「良いよ。君が望むなら、いくらでも」
「ありがと」
彼の手の暖かさを感じながら、私はまた夢の世界へと落ちていく。
満月の光が差し込むこの部屋で、ナオトが私の頬を一撫でしながら"ヘレナ……君は僕を許してくれるだろうか"と呟いたことに気付かないまま。
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