06
『おい、しっかりしろ! 自分の意識の中に閉じこもっている場合か!』
底なし沼のような意識の奥底から私を引っ張り上げたのは、幸矢の声だった。
「幸矢……?」
『ジムリーダーに勝つんだろ、だったら迷うな!
この状況で自分が何をするべきなのか、今はそれだけを考えろ!』
「……!」
私と幸矢の様子を見ていたトウガンさんが、私を見据えて口を開く。
「レイナ君、君は何をそんなに焦っているんだね?」
「そ、れは……」
思わず口を閉ざしてしまう。
だって、自分でも分からないのだ。何に対して焦っているのか、どうして焦っているのかさえも。
「君は、あの青年が遠のいていくのが悔しいんじゃないのか?
今まで肩を並べていた存在が、突然自分の先を歩いていってしまうことに恐怖を感じている。
ワシの眼には、そんな風に映るがな」
雷に撃たれたような気分だった。自分でさえ持て余していた焦燥感の原因を、トウガンさんは見透かしていた。
そっか……私は怖かったんだ。
今まで隣に立っていたナオトとの間に実力面で壁ができたことが。その壁がどんどん高くなっていってしまうことが。
ナオトがどんどん先に行ってしまうような気がして、置いていかれるかもしれないことが怖かったんだ。
「彼に追いつきたいと願うことは構わん。
だが、君は君の……君たちのやり方で堅実に進めば良いんじゃないか?
焦ったまま進んでいては、本当に大切なことを取り零してしまうぞ」
「……ありがとうございます、トウガンさん。目が覚めました。
幸矢もゴメン、トレーナーの私がしっかりしなきゃダメだよね。幸矢のことも、みんなのことも……頼りにしてるよ!」
『分かったなら良い。……勝つぞ、レイナ』
「うん!」
やる気と冷静さを取り戻した私を見て、幸矢は微かに笑っていた。
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