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「まだ迷いの洞窟に移り棲む前、私は別の場所で家族3匹で暮らしていた。
ガブリアスの父と、ガバイトの母との穏やかな生活が続くと信じて疑わなかった。
だがある日、そんな日常は崩れた。
母は私を逃がそうとして死に、父は無理矢理捕獲され連れて行かれたんだ」

誠士の口から初めて語られる、彼の過去。

それは私の想像を絶するもので、言葉を失わせるには十分だった。

小さい頃から親と引き離された彼は何を思いながら生活してきたんだろう、と思ってしまう。

本来なら人間を憎んでもおかしくないのに、彼は初めて会った時から私たちに対して好意的だったから。

「人間が憎いと思わなかったの?
今私が謝ったところで誠士の過去は変わらないし、その時の人間の仕打ちを許してもらえるとは思わないけど……」

「確かに初めは人間という種族そのものを憎く思った。目的のためならば他者のテリトリーを平気で踏み荒らす生き物なのだと。
だが、それは自然界でもあることだ。自分たちの勢力を拡大するために他の群れを襲うのと、何も変わらない。
私から両親を奪った人間のことは今でも憎んでいるが、その怒りを何の罪のない人間にぶつけるのはお門違いだろう。
それに、私があの洞窟で孤立していたのは自業自得でもある」

「え?」

「心に抱いた怒りの矛先は自分へとの変わっていった。
何故あの時自分だけ逃げたのか、お前だけでも生きろと叫ぶ両親を振り切って戦わなかったのかと自分を責め続けた。
次第に苛立ちが募っていったある日、タイミング悪くズバットの群れを襲いに来たゴルバットを一方的に叩き伏せてしまったんだ。
それ以来、あのズバットたちにとって私は恐怖の対象になった」

その後のことはレイナも知っている通りだ、と自嘲気味に笑う誠士の横顔はとても痛々しい。



「この力が誰かを傷付けてしまうなら……誰かの平穏を奪ってしまうなら、最初から親しい関係を作らなければ良い。
レイナたちと出会う前の私は、そうやって生きてきた」


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